【クリスマスの絵本】いろいろな「クリスマスのまえのばんーナイト・ビフォー・クリスマス」読み比べ 12冊

今、サンタクロースと聞いて、みんなが思い浮かべるあの姿は、ある一編の詩によるところが大きいです。

1823年に発表された、「A Visit from St.Nicolas」という題名のその詩は、神学者のクレメント・クラーク・ムーアによって書かれたと言われています(諸説あり)。ムーア博士は、ただ自分の子どものためにー病気の長女に生きる力を与えるためにー書いたのですが、それがこの年に新聞に掲載され、アメリカ中に広まりました。

今も愛されるこの詩は、たくさんの画家や作家により絵本にもされています。同じ詩を元にしていても、それぞれの作者や訳者のクリスマスへの思いや過ごしてきた背景は様々。訳す人によっても趣は変わります。みんなの思い出をのぞくように、読み比べてみてください。

1 「A Visit from St.Nicolas」に描かれたサンタクロース像

今では、詩の最初の一文をとって「The Night before Christmas」をタイトルとすることが多いですが、原題は「A Visit from St.Nicolas」となっています。

*詩の全文がこちらのサイトにありました→http://www1.ttcn.ne.jp/~fujiyan/manhattan/chelsea/visit_st_nick.htm

8頭のトナカイのひいたそりでやってくること、それぞれの名前、白い髭の太った陽気なおじいさんということ、そりを屋根にとめて煙突からやってくること、おもちゃを入れた大きな袋をかついでいること・・・これらの、私たちの知っているサンタクロースの姿は、この詩から紡がれました。

一方で、サンタクロースが「毛皮の服を着た」「小柄で妖精のようなおじいさん」として描かれているのは、今とは違うところでしょうか。

そして、中でも1番の違いは、彼の呼び名。

原詩ではサンタクロース という名前は出てこずに、タイトルにあるように「St.Nicolas」と呼ばれます。

この聖ニコラス(ニコラウス)というのは、サンタクロースの祖先とも言われる、小アジアの子どもたちと船乗りの守護聖人です。彼が、お嫁に行く貧しい姉妹のために窓から投げ込んだ金貨が靴に入った(煙突から投げて靴下に入ったとも)という伝説から、彼の祝日である12月6日の聖ニコラスの日に子どもにプレゼントを贈る習慣ができたそうです。

聖ニコラスなどの古代の信仰とクリスマスの関係、サンタクロースへの流れは、宗教改革などを挟み複雑の境地。

ともかく、聖ニコラスへの崇拝はヨーロッパに広がり、特に船での貿易の盛んだったオランダに根付きました。オランダでは彼を「シンタクロース」と呼びます。そう、のちに、オランダからの移民が「シンタクロース」とともにアメリカへ渡り、それが「サンタクロース」となっていくのです。

今でも、ドイツやオランダでは、クリスマスとは別に12月6日の聖ニコラウスの日をお祝いするそうです。

ドイツ生まれスイス育ちの作者によるアドベント物語「シモンとクリスマスねこ」で、この日のことが描かれています。オランダ児童文学の「イップとヤケネ」には、サンタクロースとは違い司祭の格好をした本物のシンタクロースも登場しますよ。

さて!これをふまえて、絵本を読み比べてみましょう♪

2 アニタ・ローベル「クリスマスイヴのこと」

彼の名:サンタクロース
姿、格好:現代風
文章:詩の形
そのほか:”ようせいのなかま”の記述あり

クリスマスイヴのこと しんとしずかな うちのなか
こんやは ねずみも おとなしい

だんろの たなで くつした ゆれる
サンタクロースを まちながら 

ー本文冒頭より

まずは、歴史とか背景とか、あれこれ言わず、ただ絵本としておもしろいもの。いえ、はっきり言うと、わたしが1番好きな The Night before Christmas を。

クリスマスカードのように完璧な構図の表紙をめくると、満月に照らされた1980年代のブルックリンの街並み。クラシカルなリビングから続く重厚な中央階段、靴下の下がった立派な暖炉、家族写真や肖像画、おもちゃがどっさり積まれた大きな大きなツリー、どれもこれも夢でみるようなクリスマスの光景・・・サンタクロースの姿だって、子どもたちのこうであってほしい!との思いそのものです。

詩の形のままの松井るり子さんの翻訳も、わかりやすく、軽やかで、親しげ。言葉が弾んで、イメージがふくらみやすく、毎年何度も読みます。我が家のNO.1クリスマス絵本なのです。

カトリック教徒だという松井るり子さんによる訳者のことばとして、サンタクロースの歴史や、この詩の背景にも触れられています。しばらく品切れが続いているのが、本当に残念です。(4歳くらいから)

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クレメント・ムーア 作 アニタ・ローベル 絵 松井るり子 訳 セーラー出版

3 ターシャ・テューダー「クリスマスのまえのばん」

彼の名:サンタクロース
姿、格好:茶色っぽい毛皮を着て小柄
耳もとがって妖精っぽい
文章:詩の形

クリスマスの まえのばん

ねずみたちまで ひっそりと
しずまりかえった いえのなか

だんろのまえには くつしたが
ねがいをこめて かけてある
「サンタクロースは くるかしら・・・・」

ー本文冒頭より

舞台は、ターシャの暮らしたコーギーコテージでしょうか。楕円に縁取られた飾り枠の中で繰り広げられる光景は、月明かりと暖炉の火に映し出され、まるで不思議な夜をのぞき見ているよう。部屋の隅まで営みが感じられ、いつまでも留まるイブの夜の気配に包まれています。

お父さんだけがこっそり目撃したはずの、この夜の出来事ですが、この絵本では、コーギーをはじめ猫やふくろうやねずみたちがサンタクロースと一緒にひとときを過ごし、物語を広げます。たくさん描き込まれているおもちゃも、ひとつひとつ素敵です・・・

サンタクロースの格好は、詩にある通り。私の手持ちの中では一番妖精っぽく、訳でも「こがらなおじいさん」とされています。

興味深いのは、実は今流通しているターシャの「クリスマスのまえのばん」は1999年の改訂版で、1975年の最初の版とは少し趣が違うことです。基本的な構図や、動物たちを巻き込んで描かれるストーリーは同じですが、ページ数の多い最初の版は、今よりもくっきりと明るい雰囲気。そして、小柄で妖精のようなサンタクロースは赤い服を着ています。今の方が落ち着いてシンプルです。どちらも素敵ですけどね!(4歳くらいから)

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著者: ターシャ・テューダー, クレメント・クラーク・ムーア 訳:中村妙子  出版社:偕成社

4 ロジャー・デュボアザン「クリスマスのまえのよる」

彼の名:サンタクロース
姿、格好:現代のアメリカ風
文章:おはなし風

クリスマスの まえの よる
いえのなかは しんと しずまっていて
ねずみさえも でてこなかった

だんろの うえには くつしたが
きちんと ならんで つるされている

ー本文冒頭より

クリスマスの靴下に入るように、と作られた縦長の判型が目をひき、本を手に取り見返しをみただけで、もう心を奪われます。ツリーの緑を背景にたくさん並ぶ、ツリー飾りの愛らしいこと・・・そして次のページには、私たちのよく知る、あのサンタクロースが親しげにお出迎えしてくれているのですから。

縦長を活かした構図は、どれも大胆にバッチリときまっていて、空高く浮かんだ満月も、煙突も、ツリーも、ぴったり。赤と黒の2色刷りと、黄色と水色と緑を足した多色刷りのページが、交互になっているのですが、カラー印刷の現代の絵本を見慣れていると、むしろ、鮮やかで印象的です。

お父さんが子どもに話して聞かせているような語り口は、とても自然で、あたたかいのだけど臨場感があり、耳を傾けるだけで胸が高なります。ムーアの語ったあの夜の出来事をまっすぐに伝えます。(4歳くらいから)

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著者:クレメント・C.ムア, ロジャー・デュボアザン  訳:こみやゆう 主婦の友はじめてブック  出版社:主婦の友社

5 デンスロウ「クリスマスのまえのばん」

彼の名:セントニコラス
姿、格好:毛皮っぽい服を着て小柄
文章:物語風

クリスマスの まえのばんのことでした。
いえのなかは ひっそり しずまりかえり
なに ひとつ
ねずみ いっぴき うごきません。

セントニコラスが はやく くるように と
ねがいを こめて
だんろの そばに くつしたが
だいじそうに かけられています。

ー本文冒頭より

オズの魔法使いの挿絵で有名なデンスロウが、1902年に描いた絵本を、じぷたの作者でエルマーのぼうけんやジョージなどの翻訳も手がける渡辺茂男さんが訳しています。ムーアの詩の発表から80年後、今、私の手元にある The Night before Christmas の中では一番古くに描かれた絵本です。

暖かそうなファー付きの毛皮を着たセントニコラスは、おしゃれ!

描かれた時代には、サンタクロースの服の色は、(ナストのイラストの影響もあって)赤が多かったかもしれませんが、他の色を着ることもあり、まだ自由があったかと思います。ムーアが詩から受け取るイメージをそのまま映した姿がここにあります。

56ページにふんだんに描かれた挿絵は、コミカルでユーモアたっぷり。クリスマスイブの夜だもの、お菓子にもおもちゃにも調度類にも命が宿り、楽しげに動き出す、踊り出す♪ そりも独特♪  アメリカンなおもちゃに混じって、え、赤べこ・・・?! 隅々まで眺めるのが楽しいです。

訳は物語風ですが、シンプルで、日記を読んでいるみたいに親しげです。(4歳くらいから)

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著者: クレメント・C・ムーア, ウィリアム・W・デンスロウ  訳:渡辺茂男 世界傑作絵本シリーズ  出版社:福音館書店

6 広がるサイドストーリー「サンタクロースとあったよる」

クリスマス・イヴ
だれもが ねむりにつくころ
まどのそとは とてもしずかで
だいじょうぶだよ ぼくたちの えんとつのしたの だんろのそばには
ちゃんと くつしたが ならんでつるされている

ー本文冒頭より

この絵本は、今まで紹介したどの The Night before Christmas とも違います。

原詩の中で、このイブの夜の出来事を目撃したのは確かにパパですが、多くの絵本では、パパの目を通して読者が目にしているようになっています。けれど、この絵本では、完全にパパの一人称で語られていきます。

ぼくはおもわず わらいごえをたててしまった
でも だいじょうぶだったよ
サンタクロースは かるく くびをかしげてみせると
すばやく ウィンクしてよこしたんだ

ー本文より

そして、この絵本には、テキストには触れられないもうひとりの目撃者が・・・すやすや眠っていた子どもたちの末っ子、まだよちよち歩きのおちびちゃんが物音で目を覚まし、猫と一緒にこの夜の参加者になるのです。まだ信じることしか知らない幼い子のキラキラした目に映る光景を想像して、物語がまた広がっていきます。

舞台は現代。パパが子どもに話して聞かせているような語り口。同じ詩を訳しているのに、解釈次第でこんなに変わるとは! それほど懐深く、みんなの心を掻き立てる詩だということですね。(4歳くらいから)

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著者:クレメント・C.ムア, ホリー・ホビー  出版社: BL出版

7 ツヴェルガー×江國香織「クリスマスのまえのばん」

彼の名:セント・ニコラス
姿、格好:小柄、独特の赤い服装
文章:物語風
そのほか:”としよりこびと”

クリスマスのまえのばんのことでした。
いえじゅうがしんとして、だれも、それこそねずみいっぴき、
めざめているものはありませんでした。

セント・ニコラスがやってきたばあいにそなえて、
だんろのそばにはくつしたが、ちゃんとつるしてありました。

ー本文冒頭より

ツヴェルガーの繊細な絵に合う、凛とした江國香織さんの訳は、お父さんの独白みたいな物語風。

練られた構図で描かれる絵は、美しく、無駄がないのに独創的。おもちゃをつるして走るそり、その引っ張られるおもちゃたち、ツリーの飾りからセント・ニコラスの服装まで、隠れた物語を秘めたような世界観に惹きつけられます。

どのページにも金銀のインクが乗り、品よくきらびやか。少し大きい人向けかな。(5、6歳くらいから)

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著者:クレメント・C.ムア, リスベス・ツヴェルガー  訳:江國香織 出版社: BL出版

8 1900年代前半に描かれた、クラシカルな「The Night before Christmas」

ジェシー・W・スミス「クリスマスのまえのばん」

ジェシー・ウィルコックス・スミスは、1900年代はじめにアメリカで活躍していたイラストレーター。この絵本は1912年に描かれました。

クラシカルで、かつデザイン性も高い絵。美しいだけでなく、的確で、もともとのこの詩が描いていたであろう世界によく合います。サンタクロースだって、詩で紡がれるまんまの姿!

私の手元にある新世研版では、テキストページの上段に英詩、下に日本語訳と、合わせて楽しめるのも、うれしいところ。今よくあるバイリンガル絵本と違い(世界の絵本を扱っていて翻訳コンテストなどもやっていた出版社なのでそういう側面もあったかもしれませんが)、手描きの飾り文字を生かして自然にレイアウトされています。

出版社もないし絶版かな・・・と思ったら、違う形ですが、Kindleにありそう。中はわからないけど、興味のある方、お試しください。

「アーサー・ラッカムたちのサンタクロース・オリジナル」

これもまた、おもしろい本です。ムーアの詩にラッカムの挿絵が添えられているのですが、監修者の判断で(あとがきに詳細あり)後半には、上のJ.W. スミスの絵も4枚挿入されています。ラッカムの作品は1931年のものだそうで、ペン画も味わいがあっていいのですが、やっぱり4枚あるカラーの絵が映画の一場面のようにすばらしいです。

けれど、この本の見所は、むしろ、15ページ以上におよぶ、監修者のあとがきかもしれません。監修をしている松本富士男さんというかたは、巻末の略歴を見ると、キリスト教関連の著作の多い文明学科の教授で、アメリカの大学へサンタクロースの研究調査にも行っているらしいのですが、その研究成果がおもしろい!

ムーアの詩のおそらく一番最初と思われるらしい挿絵を収録し、アメリカでのサンタクロース変遷をユーモアとアイロニーを持って語り、さらには日本最初の殿様スタイルのサンタの姿や「さんたくろう」という日本最初のサンタの絵も紹介しながら、日本での広がりまで丁寧に解説されていて、とても興味深いです。

9 まだまだあるよ、それぞれの「The Night before Christmas」

「聖ニコラスがやってくる!」

もうひとつ寝るとクリスマス
ねずみ1匹チューとも鳴かぬ夜の静寂(しじま)に耳すます

暖炉に靴下ならべてつるして
聖ニコラスの来訪を期待して

ー本文冒頭より

精密に描かれた幻想的な世界に添えられる、柳瀬尚紀さんの詩が一風変わっていています。訳詞で韻を踏んでいるのです。聖ニコラスの三人称を「翁」としているのをはじめ、子ども向けではない言葉が多く使われていますが、美しい日本の言葉は耳に残り、韻を踏んだ詩は声に出すのも聞くのも、なかなかおもしろいです。(5、6歳くらいから)

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著者:クレメント・C.ムア, ロバート・イングペン  訳:柳瀬尚紀 出版社: 西村書店

「しずかな しずかな クリスマス・イヴのひみつ」

クリスマス・イヴです。
いえじゅうが しずまりかえっています。
ねずみだって ねむっています。

くつしたは もうちゃんと、
だんろのまえに かけてあります。
サンタクロースがくることを ねがってね。

ー本文冒頭より

描かれたのは2012年と最近ですが、繊細な絵で紡ぎだされる世界は、ムーアがこの詩を書いた1820年の頃の光景でしょうか。街並みも、屋内の調度類も、格式高く美しく、きらびやかさはまだどこか控えめで品があります。サンタクロースの服装は白ベースの毛皮で、これもこの時代にムーアが抱いていたイメージを映したのかもしれません。(4歳くらいから)

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著者:クレメント・C.ムア, アンジェラ・バレット  出版社:BL出版

「サンタクロースがやってきた」

グランマ・モーゼスが絵を描き、倉橋由美子さんが訳したこの絵本(宝島社)は、今は残念ながらどこも販売していないようです。

グランマ・モーゼスの描くクリスマスの風景、光景を眺めるだけでしあわせ。ページ毎に違うサンタさんやそりの様子、愛おしすぎます。クリスマスのお祝いの日のあたたかな空気に包まれています。

「ナイト・ビフォー・クリスマス」

サブダのしかけ絵本の素晴らしさは、ご存知の方が多いと思います。わたしは、冬やクリスマスをテーマにした、きれいな色の台紙に白が基調のしかけのある「白い世界」の本が、一番好き。シンプルだけど、美しさと精巧なしかけが引き立ちます。

ほとんどの工程が手作業だという、工芸品のようなしかけ絵本が、長く流通していることが、とてもありがたいです。いつか・・・と思っていると、手に入らなくなるかもしれない。毎年、今年はまだ出版されているかな?とドキドキします。

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著者: Clement Clarke Moore, Robert Sabuda  出版社:LITTLE SIMON

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いかがでしたか?

国内で出版されたものだけでも、まだまだ紹介しきれない本もあります。そのくらい、多くの人の想像をかきたてる、すばらしい詩なのだと思います。

紹介文ではあまり触れられませんでしたが、室内や暖炉の装飾に、ツリーに、それぞれの画家の過ごしてきたクリスマスや時代が投影され、それを眺めるだけでもおもしろいです。

印象的なナイトキャップ・・・どんなのをかぶっているのかな?とか、パパの格好もちょっとしたお楽しみ。

そして、わたしは、この詩の最後の、”Happy Christmas to all, and to all a good-night!” と空からメッセージを残して去っていく場面が大好きなので、どんなふうに描かれるかも大事かな、と思っています。

ああ、話し出すと止まらない・・・みなさんも、それぞれのイメージに合う “The Night before Christmas” 見つけてみてくださいね☆

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