2021年度の課題図書を実際に読んでみました。
どれを読もうかな・・・夏の読書の本選びに迷ったら、お役立てください。
感想文を書くことには賛否両論ありますが、好きなものについて考えることや、話すことや、書くことや、紹介することは、本来たのしいことのはず。
読むのは、みんな。感想は、それぞれ。まずはおもしろい本や好きな本と出会って、自分のそのときの気持ちを、素直に綴ってみてくださいね。
娘の作文に付き合いながら考えた、感想文のコツをこちらにまとめてみました
「わたしたちのカメムシずかん やっかいものが宝ものになった話」
岩手県の葛巻という町の、小さな小学校で実際にあったおはなしです。この地方では、毎年、カメムシがたくさん発生します。夏は農作物をダメにし、冬は室内にはいってくるカメムシは、町の人たちにとって「やっかいもの」でした。けれど、ある時、小学校で掃除の時間に掃き集められたカメムシを見て、校長先生が思いつきます。「やっかいなカメムシですが、よく見ると、いろんな種類がいるようです。みんなで一緒に調べてみませんか?」最初は戸惑う子どもたちでしたが、いざ始めてみると・・・
1種類、2種類、と見つけていくうちに、子どもたちはどんどん夢中になっていきます。今まではただ「カメムシ」だったものに、それぞれの名前がわかると、親しみや興味がわきます。興味がわくと、見方が変わります。その様子が手にとるように伝わって、読んでいるこちらも、ワクワクします。
【どんなところがおすすめ?】
自分の目で見つけたよろこびが、もっと見つけたいという気持ちをかきたてます。
本文より
目の前にあふれていても見えていなかったものが、興味を持つことで見えてくるのは、不思議です。そして、興味を持った子どもたちが夢中になっていく様子が、とっても楽しそうで、ワクワクします。
すごい!やってみたい!自分だったら・・・
ふとしたひと言が、小波のように広がる。みんなの心が動き、それがたくさんの人を動かしていく。自分たちの好奇心には、おおきな力があるのだと実感できると思います。
物語よりも、図鑑や自然科学の分野が好きな子におすすめです。
「ゆりの木荘の子どもたち」
ゆりの木荘は、100年以上前に建てられた立派な洋館です。持ち主がなくなってしまい、今では、外観はそのままにリフォームされ、「有料老人ホーム・ゆりの木荘」となり、6人のお年寄りが住んでいます。 古くからあったものはほとんど捨てられてしまいましたが、玄関ホールにあった大きな振り子時計だけは残されました。この時計こそ、この物語のはじまりに欠かせないものだったのです。
かすかに聞こえてきた手まり歌にみちびかれ、ゆりの木荘のお年寄りたちが77年前にタイムスリップをするお話です。
突然子どもにもどってしまったお年寄りたち。なぜこんなことが起きたのか・・・77年前の夏という「時」に隠されたこと、当時の記憶、もうひとりの友だち、やり残していたこと、どこかに隠された魔法を解くヒント。次から次に謎にぶつかりながら、ゆりの木荘の秘密にせまります。
【どんなところがおすすめ?】
中学年くらいだと、タイムスリップ物語を初体験の子も多いのではないでしょうか?
それほど長くない物語の中に、たくさんの謎のかけらが散りばめられ、テンポよくぐんぐんとすすみます。たった1日の冒険。子どもにもどったお年寄りたちと一緒に、駆け抜けるように過ぎる、夢みたいにあっという間の出来事。
見事な伏線の数々・・・過去と現在、時を超えてすべてがつながる、タイムスリップものの醍醐味も、しっかりと味わえます。一気に読み終わり、キツネにつままれたような気持ちで、最初から読み返したくなるはず。
作者は、日本のファンタジーの名手・富安陽子さんです。
「ぼくのあいぼうはカモノハシ」
ルフスは、お姉ちゃんとお母さんと、ドイツに暮らす、気のいい男の子です。大好きなお父さんは、1年間オーストラリアに単身赴任をしていて、いつも会いたくてしかたがありません。そんなある日、夕立を雨宿りしていたルフスは、動物園から逃げ出してきたという、カモノハシを拾います。それも、シドニーと名乗る、人間の言葉をしゃべるカモノハシ!故郷のオーストラリアに帰りたいというシドニーに頼まれ、ルフスもお父さんのところへ行く決心をしますが・・・
言葉だけは丁寧で、おすましやで、カモノハシとしてのプライドが高く、思い込みのはげしいシドニー。おだて上手で自信満々。このシドニーの知ったかぶりに振り回されながら、(路線)バスで、(足こぎ)ボートで、ついには飛行機で?!、オーストラリアを目指すルフス。本当に、オーストラリアに行くことができるのでしょうか?
【どんなところがおすすめ?】
ちょっと頼りなく、流されがち押されがちなルフスは、はちゃめちゃなシドニーを信頼しきっています。口は達者だけど、人間の世界ではできないことの多いシドニーは、なんだかんでルフスを頼っています。
いつも一か八か。心もとないふたりのチャレンジは、なかなかうまく行かないけれど、ふたりともどこかのほほんとしていて、めげません。そんな様子をハラハラしながら見守っているうちに、「ありえない!」という気持ちが応援に変わります。
よい結末を信じる気持ちを持ち続ければ、幸運の女神もほほえむのですね。
「カラスのいいぶん」
ゴミ置き場を散らかすし、大きくて威圧感があるし、まっくろでなんだか不気味・・・カラスのイメージは、だいたいこんな感じで共通しているのではないでしょうか。この本の著者も、そう思っていたそうです。でもある時、カラスをギャフンと言わせるために、弱みを握ろうと観察をはじめ、考えが変わっていきます。カラス側にも都合がある。そんなカラスの言い分に耳を傾けてみると・・・
著者は、引っ越した家の庭にやってくるカラスの様子を見ているうちに、暮らしや生態を理解し、親しみを感じ、ついには信頼関係のようなものまで築いていきます。その目を通して見ると、頭がよくて遊び上手、律儀で情のあるカラスの姿が見えてきます。
生態や豆知識を交えながら、カラスと向き合った日々が綴られるノンフィクションです。
【どんなところがおすすめ?】
人間の都合に振り回され、都会で嫌われものになってしまったカラス。悪いところばかり目につきますが、少し見方を変えると、人間をよく観察し学習するかしこさ、遊ぶのが好きでいたずらもののお茶目さ、夫婦寄り添い子育て熱心な家庭的な一面があることがわかります。
そして、自然界がそうあることには、いつも理由があるのだなあと気づきます。
決めつけず、何事も、多角的に見ること。知ることで変わることがあること。興味を持って知ることの大切さやおもしろさがわかります。
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2021年の課題図書、低学年の部は、こちらにあります。