ゆくえふめいのミルクやさん

どんなに満ち足りた生活をおくっていても、ふと、いつもと違う道をえらんでしまいたくなること、きっと、だれにでもありますよね。

この絵本は、毎日毎日くり返される、町の奥さんがたとの天気のはなしにうんざりしてしまった、ミルクやさんのおはなしです。

プチ逃避行と、おなじみの毎日と、両方が愛おしくなるおはなし。

ミルクやさんは、毎朝4時に起きて、愛犬のシルビアと一緒に愛車のアメリアで町中に配達に出かけます。てる日も雪の日も、毎日毎日、一軒一軒。配達先の奥さんたちは、品ものを受け取ると天気のはなしをはじめます。てる日も雪の日も、毎日毎日。

ある日、いつものように、愛車に愛犬と荷物を積んだミルクやさんでしたが、誰の家の前にもとまらず、町を通り抜けてしまいます。

「シルビア、おもいきりしっぽをふっていいんだぜ。今日は、とまったりはしったりしない。とびおりたりとびのったりもなし。おもて通りもうら通りもなければ、お天気のはなしもなし。アメリアの気のむくままにぶっとばすんだ」

わかれ道では、コインをなげて、お腹が減ったらトラックに積んである品ものを食べ、ミルクやチーズとひきかえに、ガソリンや氷を手に入れて。道のむくまま、気のむくままに、旅をつづけたふたりは、やがて、森のなかの、きれいで静かなみずうみに、たどりつきます。

・     ・     ・

そこで、こころゆくまで、好きなことをしてくらすふたりの、なんて、なんて気持ちよさそうなこと!

こころゆくまで・・・
最高の響き。

そして、こころが十分に満足したころ、ミルクやさんは、奥さんがたとの天気のはなしがなつかしくなり、自分を待っていてくれる、いつもの毎日に、もどっていくのでした。

毎日をないがしろにしていたら、待っていてくれる人がいなければ、きっと、どんなに遠くにいったとしても、こんな素敵にのびのびとした時間は、味わえません。

日常あっての、非日常。帰る場所があっての、家出、です。

 

【この本のこと】

「ゆくえふめいのミルクやさん」
ロジャー・ヂュボアザン 作 山下明生 訳
童話館出版 

【だれにおすすめ?】

読んであげるなら、5歳くらいから

もちろん、子ども向けに書かれたおもしろいお話ですが、おとなが読むと、別の意味で、グッときます。

がんばりやさんのあの人に、そっと差し出してみましょうか。

 

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