あの庭の扉をあけたとき

ー 「強情っておもしろいの?」「そりゃあ、おもしろいわよ。強情でない人がどうして生きているのかわからないわ。毎日がすごく退屈だと思うわ」

ー 「おとうさん、人は怒ると元気がでるの?」わたしはおとうさんと手をつないで歩いています。「おまえはどうだね?」(中略)「でも、わたし泣くとき元気がいいね。元気じゃなく泣くときもあるけど。いちばん元気が出る泣き方はね、くやしいときだよ」おとうさんは笑いました。

       (本文より)

お父さんとの散歩の途中でみつけた、昔は立派だったであろう、洋館の廃屋。

ある日通りかかると、家は息を吹き返し、バラの咲き乱れる、美しい庭ができていました。おばあさんがひとり、引っ越してきたのです。

口の悪い、そのおばあさんを恐れながらも、どこか惹かれる、5歳の<わたし>。

その後、ジフテリアにかかり、病院で長く過ごすことになった<わたし>は、ある夜、ひとりの少女に導かれ、そのおばあさんの過去をのぞくことになり・・・

・     ・     ・

5歳の少女がふれる、70歳の老婆の記憶。

強情な少女と強情な少年の、うもれた歴史と、その強情ゆえの、切ない結末。

その強情ゆえの、今。

5歳と70歳、過去と今。
時間は、ひととき、混じり合います。

5歳も14歳も70歳も、今、を持っているだけでなく、これまで生きてきた時間、全部を、持っているから。

過ぎてきた時間は、薄れていくのでも、消えていくのでもなく、すべてが<わたし>の一部だから。

裏も表もまるごと抱えて生きる覚悟のある、強情な作者が、スッとカーブをかけて投げる、不器用な人間へのやさしさ。ストレートで思い切り投げる、たくましい言葉の数々。

こぼさず、受け止めて。

 

【この本のこと】

「あの庭の扉をあけたとき」
佐野洋子 作 偕成社

【だれにおすすめ?】

小学校4、5年生から。

児童書として出ていますが、ぜひ、おとなの人にも読んでもらいたいです。

人生が長ければ長いほど、心に響くのではないかな?

そして、すべての強情っぱりな人に・・・

 

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