たくさんの、色とりどりのクリスマスの絵本のなかで、だからこそとても目をひく、あずき色の表紙。
ひらくと、水彩で描かれた冬景色が広がります。
ちいさなろばのさみしさ、おどろき、よろこびが、しんしんと伝わり、つもり、イメージのかけらや、たくさんの想いが夢のように淡く、こころにのこる絵本です。
くさはらの中に、ちいさなかこいがあって、ひとりぼっちの、ちいさな、くろい、ろばがいました。かこいの中をかけまわって、「イーヨウ!」とないても、「イーヨウ!」とこたえてくれる友だちは、いないのです。
ろばは、クリスマスのことも、サンタクロースのことも、知りませんでした。
けれど、通りかかった女の子に、はじめて教えてもらったその夜。ちいさなろばは、足をいためたトナカイのかわりに、サンタクロースの手伝いをすることに、なったのです。
無事につとめを終え、くたくたになって眠りについた彼に、サンタクロースがくれたのものとは・・・
クリスマスの日は特別なことが起こる。サンタクロースは、だれにでも、ほんとうにぴったりのプレゼントをくれる。ちいさなろばだって、満足でこころをいっぱいにし、胸をはることができる。
そんなあたりまえのことを、あたりまえに信じている子どもたちにとって、これほど、気持ちを満たしてくれる絵本は、ないのではないでしょうか。
静かで、おだやかで、美しくて、あたたかい、クリスマスのものがたり。
奇跡って、こういう風におきて、こんな風に、語られるものなんだよ。
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わたしが、子どものころに読んでもらったクリスマスの絵本の中でも、とても印象深く、こころに残っていた1冊です。
すべての場面が、静かなのに、ドラマチック。
声にされるために生まれたような石井桃子さんの訳のテキストは、読んでくれた人の声と、その時間のあたたかさと一緒に、きざまれます。
今も、たくさんの大好きなクリスマス絵本の中で、そっと、特別におもっている、絵本です。
【この本のこと】
「ちいさなろば」
ルース・エインズワース 作
酒井信義 画
石井桃子 訳
福音館書店
【だれにおすすめ?】
読んであげるなら、3歳くらいから。
街にも、書店にも、まぶしいくらいにきれいな色が並ぶこの季節に、この佇まいは、目を引きます。
表紙も、内容も、派手さはなく、けれど一つ一つのエピソードが、こころに刻まれます。
我が家には、100冊以上のクリスマスの絵本がありますが、娘たちも、もう何年もこの絵本をよく読んでいますし、ことり文庫でもおすすめすると、気に入ってくださるお母さんが多いです。本当におすすめしたい1冊。