自分で物語を読むことの、大きな面白味のひとつが、共感ではないかと思います。
もちろん、絵本の読み聞かせでも、主人公に共感したり登場人物の気持ちを理解したりできるものもありますが、自分で読むということは、主体的にその世界に入っていく、自分から近づいていくということ。
折りしも、自分で物語を読むようになる小学校低学年の子どもたちは、まわりにしっかり守られていた幼児期から、自分自身で感じて考える幼年期へ、立場も自我も変化していくとき。
自分も相手も一つの存在として認識する。そして、広がった世界でたくさんの人と出会い、自分自身の気持ちに気づき、相手の気持ちも考えるようになっていきます。
そんなときに読みたい、気持ちを読んで、感じて、ちょっぴり考えるーそんな幼年童話を選んでみました。
読書感想文にもおすすめ!
*だいたいですが、内容が易しい順に並んでいます
きいろいばけつ
文章量・・・1ページ8行 ,77P ,すべてひらがな ,どの見開きも挿絵あり
げつようび。きつねの子が、橋のたもとできいろいバケツを見つけました。ちょっぴりはいっていた水に顔をうつし、きつねの子は、前からこんなバケツがほしかったんだ、と思います。きつねの子が持つのにぴったりの大きさのバケツ。あちこち見ても、だれの名前も書いていません。大急ぎで、友だちのうさぎの子とくまの子を呼びに行くと、ふたりは、だれもとりに来なくてずっとそこにあったら、きつねの子のものしてもいいんじゃない、と言います。次のげつようびまで、このままだったら・・・
月曜日まで、何度も何度も見に行って、バケツの横であれこれ想像して過ごすきつねの子、どんな気持ちなのかな?いよいよ明日が月曜日、という夜は?朝早く向かうときは?
そして、バケツがなくなっていて、バケツと一緒に過ごした1週間を思って、「いいんだよ、もう」と話すきつねの子は、どんな気持ちなのかな。
大切なものと過ごした時間、大切だと思った気持ち。もしかしたら、自分のものじゃなかったからこそだったのかもしれない、あのワクワク。とても短い幼年童話ですが、物語に余白があり、きつねの子に寄り添って想像して、何度も繰り返し楽しめます。
一さつのおくりもの
文章量・・・1ページ5〜7行程度 ,78P ,漢字少しだけ,どの見開きも挿絵あり
「かいがらのおくりもの」は、クマタのお気に入りの絵本です。毎日読んで文はすっかりおぼえていますし、出てくる動物たちは本当の友だちのよう。それはそれは、大切にしていました。
ある日、思いがけないことが起こります。何日も続いた大雨で、山の向こうの村が水びたしになってしまったのというのです。村のようすの話しを聞いたり、手伝いに出かけていくおとなたちを見て、子どもたちも何かしてあげたくなり、自分たちの持ち物を届けてもらうことにしました。みんなが大切なものを持ち寄るなか、クマタは・・・
大好きだった「かいがらのおくりもの」の物語と、クマタの現在が重なっていき、読みながら、自分だったらどうするだろう・・・と思わずにはいられません。
天邪鬼なので、道徳的なことがわかりやすく書かれている物語に一歩引いてしまうわたしですが、この物語を読んで、東日本大震災のときにたくさんの人が大切な本を東北に送ったことを思い出しました。この本が書かれたのは、震災の翌年。関係があるかはわかりませんが、そんなことも伝える1冊になりそうです。
ひみつのきもちぎんこう
文章量・・・1ページ8行 ,88P ,漢字少しだけ,どの見開きにも挿絵あり
下校時間。ゆうたが友だちの頭をコツンとはたいたとき、どこかから”ジャリーン!”と聞きなれない音が響いたような気がしました。次の日、友だちの落とした本を拾ってあげるかわりにけとばしたときも”ジャリーン!”。なんだろう、と思っているゆうたのもとに、手紙が届きます。きもちぎんこうより、と書かれた封筒をあけると「預かっている通帳がいっぱいになりそうなので、なんとかしてください」という手紙と地図がありました。
きもちぎんこうでは、その人が本当に持っている気持ちと違う「うそ気持ち」が出てしまった時にコインが貯まっていくといいます。そして、通帳がその黒いコインでいっぱいになってしまったら、いい心が空っぽになって消えてしまうとか!ゆうたは、黒いコインをけすべく、「ほんま気持ち」の銀色コインを貯めようと思いますが・・・
わかりやすいようなわかりにくいような設定ですが。いろんなことが邪魔をして気持ちの通りにできないこと、ありますよね。それが悪いものとして貯まっていくのって、恐怖だけど・・・そのくらい背中を押されてようやく一歩を踏み出せるものかもしれないなあとも思います。
ふしぎなのらネコ
文章量・・・1ページ8行 ,95P ,漢字少しだけ ,どの見開きにも挿絵あり
一年生になったお祝いにもらった机の引き出しに、たからものをきれいに並べていたさきちゃん。引き出しを勝手にあけてぐちゃぐちゃにしてしまった妹に怒って、たたいてしまいます。妹の泣き声でやってきたママに聞かれても、さきちゃんは「だって・・」としか言えません。また別の日には、学校のブランコを代わってくれないお友だちにも同じことをしてしまい、やっぱり「だって・・・」。そんなある日夢を見ます。公園に行くと、ブランコの前に黒いのらネコがいて、さきちゃんが怒ってどけようとすると「どうしてもっとやさしくいえないんだよ」としゃべるのです。それを聞いたさきちゃんは涙が出てきて・・・
まだ一年生。自分の気持ちを言葉にかえるのって、むずかしいよね。思うようにできずにもどかしい気持ちを抱え、ゆれるさきちゃんの心がいじらしい。ちゃんと理由があって、ちゃんと考えていて、ちゃんとどうにかしようとしているんです。
「ゆっくりでいいから、ちゃんと言葉にしてみる」「どなったりたたいたりしないで、言いたいことをやさしく言う」ぐっとおねえさんになったさきちゃんに、我が身を振り返る母でありました・・・
かわいいこねこをもらってください
文章量・・・1ページ8行 ,80P ,漢字ほんの少し ,どの見開きにも挿絵あり
学校の帰り道、カラスにやられそうになっていた子猫を助けて、家につれて帰ったちいちゃん。ホコリとすり傷とめやにだらけのボロボロの子猫は、病院で手当をしてもらいすっかり元気になりましたが、ちいちゃんのアパートでは猫を飼うことはできません。ちいちゃんとお母さんは、一生懸命に飼ってくれる人を探しますが、なかなか見つからなくて・・・
ストーリーはシンプルですが、ちいちゃんの気持ちは起伏に富んでドラマチック。
勇気を出して子猫を助け、必死で飼い主探しをし、子猫を可愛がり、お母さんを困らせないように我慢をし、クラスメイトのからかいに戸惑い、ついにどうしようもならなくなって・・・いろんな困難に挫けそうになりながら、健気に向き合うちいちゃんに、読みながらピタッと心が寄り添います。だからこそ、自分のことのようにうれしく、とびきりのハッピーが最後のページに待っています。
ぼうけんはバスにのって
文章量・・・1ページ8行 ,96P ,漢字少しだけ ,どの見開きにも挿絵あり
毎年夏休みになるとお姉ちゃんと一緒に行っていた山梨のおばあちゃんのうちに、今年はなんとなんと、一人で行くことになった、二年生のぼく。しっかり準備して、お父さんに見送られて、張り切って高速バスに乗り込みました。ひとりになったバスの中、最初は景色を眺めてさい先よく過ごしていましたが、次々と困ったことが起こります。
おばあちゃんに話しかけられ、隣に座った体の大きなお兄さんがさんざん食べて寝ちゃって、気づくと窓の景色が変わっていて、あせってお母さんに電話しようとしたら携帯電話を充電し忘れていて・・・
はじめての「ひとり」。がっかり、怒り、よろこび、不安、緊張、反省、困惑、憂鬱、勇気ーいろんな感情の大波小波を、みんな自分で受け止めなくてはいけません。
ラストの晴々しい後ろ姿に、思わず拍手。目まぐるしくかわる感情もきちんと物語として紡がれ、短いけれど読み甲斐のある童話です。
魔女ののろいアメ
文章量・・・1ページ10行 ,79P ,漢字まあまあ ,どの見開きにも挿絵あり
「おねえちゃんなんか、だいきらい」お姉ちゃんの返す本を10冊も持たされて、腹を立てながら図書館に向かっていたサキは、見たことのない屋台を見つけました。屋台の向こう側にいるのは、黒い帽子をかぶってメガネをかけたおばあさん。カラスのとまった屋根には「アメ屋」と書かれ、台には棒つきのアメが立てられています。思わず立ち止まり、どの味がいいか選ぶサキに、おばあさんがすすめたとっておきのアメは、のろいのアメ。誰かの悪口を10こ言いながらかき混ぜて固めたアメを、その人に食べさせると、気絶してしまうというのですが・・・
20こでも30こでも言えると思った、おねえちゃんの悪口。でも、悪口を思い浮かべるたびに、おねえちゃんのいいところも思い出します。悪いところも知ってる、同じくらいいいところも知ってる。正直でいられるからこそ、嫌にもなるし、好きにもなる。きょうだいって、家族って、そういうものなんですよね。
本当に苦いのろいのアメ、作れる人なんて、いるのかな?コミカルと人情、両方たのしめる、マーブル味のお話しです。
しゅくだい なかなおり
文章量・・・1ページ10行 ,79P ,漢字けっこう出てくる ,どの見開きにも挿絵あり
転校してきてすぐに仲よくなったしんご。釣りと電車、好きなことは違うけど毎日のように一緒に遊んでいた。ぼくはしんごの釣りの話を聞くのが好きだったし、しんごがぼくの電車の話を聞いてくれなくてもかまわなかったけど、そのしんごが「一緒に鉄道公園に行こう」と言ってくれてうれしかったんだ。それなのに約束の朝、しんごは来なかった。翌日、何事もなかったように話しかけてきたしんごに、ぼくはうまく答えられず・・・
ああ、わかります。「ごめん」その一言で解決するのに、素直に言えない。素直に許せない。そうして、気持ちが落ち着くころには、仲なおりのきっかけが遠のいているんです。
物語は、ぼくの悶々とした葛藤を中心に描かれますが、しんごにはしんごの葛藤もあったことも伝わります。たった一言で、軽くなったり重くなったり、心ってほんと不思議です。
つくしちゃんとおねえちゃん
文章量・・・1ページ11行 ,72P ,漢字少しだけ , 挿絵のないページもあり
頭がよくて、ピアノも上手な優等生の4年生のお姉ちゃんがいる、まだちょっと幼くて甘えん坊な2年生のつくしちゃん。姉妹の日常が、つくしちゃんの視点から、5つの短いエピソードで綴られます。
何でも自分でやっちゃうお姉ちゃんへのちっちゃな不満「いばりんぼう」。朝から文句を言われながらも、結局お姉ちゃんがかばってくれる「あと5分」。運動の苦手なお姉ちゃんの影の努力を垣間見る「ドッジボール」。友だちへのプレゼントを渡せなかったお姉ちゃんの涙にふれる「なみだ」。友だちとお祭りに行くお姉ちゃんに、連れて行ってもらいたいつくしちゃんとのやりとりを描いた「ごめんなさい」。
強いだけじゃない、頼りになるだけじゃない、弱さもあり、不器用でもあり、努力家でもあるお姉ちゃん。そして、そのお姉ちゃんに対して、頭にきたり悔しかったり・・・でもやっぱりその大きさに敵わない、かわいいつくしちゃん。どこにでもある日々に、ふたりの言葉にできない心模様が描かれていきます。
よくある姉妹あるあるで終わらず、その向こうにある気持ちを丁寧に紡ぎ、それぞれの立場から感じ考えたり気づいたりするきっかけになる1冊です。
しっぱいにかんぱい!
文章量・・・1ページ8行 ,96P ,漢字まあまあ , 挿絵のないページもあり
達也は6年生のお姉ちゃんと留守番。でも、お姉ちゃんは、きのうの運動会のリレーでバトンミスして失格になってから、落ち込んで部屋から出てきません。そんな時、近所に住むおじいちゃんから、いとこたちが来るから遊びに来ないか、とのお誘いが。みんなで食事をしながら、子どもの頃した失敗の話になって・・・
誰かが失敗を話すたびに、かんぱーい!。みんなの話を聞いているうちに、失敗も悪いことばかりじゃないな・・・と思えてきます。失敗したからわかること、見える一面もあるし、何より時間がたてば格好の笑い話。
子どもの身近な悩みを身近な人との対話で解いてく、「かんぱい!」シリーズ。「ずるやすみ」「うそつき」「0てん」「なきむし」「わすれんぼ」etc・・・誰でも身に覚えのある悩みがすらり。会話だからこそ、語っている人の想いがまっすぐに届く、よき相談相手のような本です。
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いかがでしたか?
本を読む楽しさって、いろんな種類があります。
気持ちに沿うことはそのひとつに過ぎませんが、本を通していろいろな立場の人の境遇や気持ちに触れることができるのは、読書の大きな利点で、生きる力につながるもの。
ぜひ、今からそれを味わってみてくださいね♪
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1、2年生におすすめの本、こちらにもたくさん紹介しています
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