いつものお散歩コースの草花の姿が、変わってきました。緑が濃くなり、背が高くなり、虫が多くなり、花から実へ、そしてたねへ。
せっせと花を摘んでいた子どもたちの目も、花からたねへ。形も、大きさも、できる場所も、それぞれ違うことに、気がつきます。
道端や、空き地や、畑に咲いた春の草花。
道端には、たんぽぽ、のあざみ、ハルジオン、カラスノエンドウ、ムラサキケマン、スイバが。空き地には、すみれ、シロツメクサ、かたばみ、オオバコ、アメリカフウロが。畑にも、いく種類も。
春のある日、それぞれが、それぞれの場所で、根を張り命を育む様子が描かれ、ページをめくると、そのままに時が流れ、花が終った自然の姿があります。
そこに宿る、草の子ども、たね。よく見てみると、綿毛をつけたたね、細長いたね、ぎっしりつまったたね、きれいに並んだたね・・・いろいろな形状をしています。
そして、旅立ちのときがやってきて、それぞれの新しい場所に仲間をふやすために、あるものは風にのって飛んでいき、あるものはピチパチはじけ、あるものは虫にさわられてこぼれて。土に落ちて芽を出して、やがてまた、たねを作るのです。
・ ・ ・
雑草の美しさにひかれ草花を描き続けて60年以上という、甲斐信枝さんによる、草花の絵本の1冊。
子どもたちの目線の範囲でおこる命の営み。その大切な部分を伝えながら、けれどひとつの草花の一生をおもしろい物語として描く、優れたかがく絵本です。
人に守られ、育てられていく花や野菜と違い、自分自身で生き抜く雑草の、なんとしたたかなこと。長い年月に培われた生命の知恵が、小さなたねにも、つまっています。その一端に、触れるひととき。
【この本のこと】
「たねがとぶ」
甲斐信枝 さく
森田竜義 監修
福音館書店
【誰におすすめ?】
読んであげるなら、4、5歳くらいから。
草花に興味のある子にはもちろんですが、絵本で触れることで、同じ景色が変わってみえ、そこから興味が広がることも、よくあります。
おとなも魅了する、甲斐さんの絵本。親が自然へのいろんな視点を得ることや、子どもと共有することで、子育ての日々がより豊かになると、思います。