ものがたりには、いつも、発端があります。
小さな種だった出来事が、ゆっくりとふくらみ、やがて土から顔をだすようにー目に見える部分だけ語られるものがたりの、土の中の世界がプロローグです。
マーガレットは、サンタクロースにあこがれる女の子。クリスマスが近づくと、森や湖で、かわいい木の実やきれいな葉っぱをあつめて、丁寧に包んで、近所の人に、おくりものをします。
でも、この時期のおとなたちは、とてもいそがしく、あまりかまってくれません。
マーガレットは、思います。わたしが、ほんもののサンタクロースだったら・・・
そんな、プロローグで幕があける、ものがたり。
クリスマスの前の朝。留守番中のマーガレットのもとを、ふしぎなお客が訪ねてきます。
その、ちいさなくるみ割り人形は、マーガレットを、サンタクロースとしてむかえにきたと、言うのです。
最初こそ、半信半疑だったマーガレットも、トナカイのかわりの大きな鳥たちの背中に乗るころには、すっかり、わくわくしてきました。
サンタクロースとはすこしちがうプレゼントを、少しちがう相手へ。
よろこばれるよろこび、広がる光景の美しさに満たされ、すべてのプレゼントを配り終わると、ラッパの音が、鳴りひびき・・・
白く、どこまでも広い、空気の澄みわたった、作者独特の世界。
プロローグでかけられた魔法は、めくっても、めくってもとけず、ものがたりのさいご・・・すばらしくあたたかな、ささやかなミラクルまで、運んでいってくれます。
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年を重ねるごとに知っていった、「だれかのために」。
けれど、まだ幼さの残るマーガレットは、もう、人をよろこばせるよろこびを、知っていました。
よころばせることをよろこぶ。
それが、わたしたちが誰かのサンタクロースになるための、クリスマスのたのしみが、とぎれることなく続いていくための、必要な条件なのだと、思います。
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【この本のこと】
「マーガレットとクリスマスのおくりもの」
植田真 作 あかね書房
【だれにおすすめ?】
読んであげるなら、5、6歳からですが、それより、自分で読める小学生や中学生の子にぜひ読んでみてもらいたいです。
プロローグからしあわせなラストまでの流れは、鮮やかで、絵と文章のバランスも見事。1編の小説のような読み心地です。
絵本を卒業していても、こんなおとなっぽい素敵なものなら、きっと手にしてくれると思います。