よく晴れた秋の日、手にする絵本。
ある朝、ぶた小屋にポツンと、ちいさなドラゴンがいました。
母さんぶたが、産んだのでしょうか。でも、ドラゴンはおっぱいにするどい歯でかみつくので、母さんぶたは、あまりドラゴンが好きではないみたいでした。
わたしとおとうとは、毎日、ドラゴンにえさを与えに、ぶた小屋にいきました。
ドラゴンは、ろうそくが大好物なのです。
機嫌のいいときは、赤くて大きな目でじっとみつめ、しずかに笑って、しっぽをゆっくりふります。
ときどきは、小屋の隅でじっとわらをかんだり、涙をうかべていることも、あります。
無邪気で、気分屋で、とてもとても愛おしい、小さなドラゴン。
たのしい日々は過ぎていき、夕焼けのうつくしい日、別れの日、それも突然、やってきました。
スウェーデンの森の、ピンとはった空気の中で、夕日はどんなにかうつくしいのでしょう。
どんな気持ちを、かきたてるのでしょう。
夕日にむかって歌いながらとんでいったドラゴンは、きっと、もう戻ってきませんし、そのたねあかしも、ありません。
ただ、本をとじて、そっと目をつむると、それから・・澄んだ秋の夕日に出会うと、いつだって、ドラゴンは、こころの中にもどってくるのです。
かわいい、ドラゴン。
【この本のこと】
「赤い目のドラゴン」
アストリッド・リンドグレーン 文
イロン・ヴィークランド 絵
ヤンソン由実子 訳
岩波書店
【だれにおすすめ?】
読んであげるなら、4歳くらいから
作者は「長くつ下のピッピ」のリンドグレーン。絵を描いているヴィークランドも、ロッタややかまし村などたくさんのリンドグレーンの挿絵を手がけているのでおなじみです。
すべてが唐突で、つかみどころのない、不思議な味わいの物語なので、年齢は選ばず、小さくても大きくても、響く人には響くと思います。
ページをめくるごとに、何も言わないドラゴンの存在がどんどんふくらみ、ラストは胸がしめつけられます。
【今日は何の日?】
ドラゴンがやってきたのは4月のある朝。
そして、去って行ったのが、10月2日です。
その時の夕方の描写がとてもとても美しく、切ないほどに美しく、別れを引き立たせます。
コメント