外で働く夫と家事育児を担う妻、どっちが大変か、なんてよくある話題。
共働きが当たり前、家事も分担でどっちの気持ちもわかる人の多いこの時代だって、口に出したりはしないまでも、心の中で「こっちのほうが大変なんだけど・・・」と思うくらいは、誰だってあるわけです。
この問題、ずっと昔のヨーロッパのお百姓さんだって、同じことを言っていたみたいで・・・
フリッツルというお百姓さんには、奥さんと赤ちゃんがいて、犬と雌牛とヤギとブタとそれにガチョウも飼っていました。
フリッツルは毎日畑にでて一生懸命に働き、奥さんはその間、掃除に料理に赤ちゃんのお世話と、こちらも毎日精一杯。
でもフリッツルは、自分のほうが大変だと思っていたんですね・・・
ある日クタクタになって畑から帰ってくると、「お前さんはずいぶんラクをしている」「男の仕事がどんなものかわかってない」さらには「お前さんのやることといったら、家のまわりをぶらつくだけじゃないか」なんて言い出します。
でたー!というかんじです。言ったね?言っちゃったね?って、わが家ならゴングがなるところですが、かしこい奥さんは涼しい顔で、それなら明日は仕事をとりかえっこしよう、と提案するのです。
さてどうなったか。
フリッツルは、想像をはるかに超えてくれます。
きっちり畑仕事を終えて、昼ごはんを食べに家に帰ってきた奥さんが目にしたのは、屋根から宙ぶらりんになっている牛に、食い荒らされた裏庭に、バターまみれの赤ちゃんに、ソーセージを食べすぎてひっくり返った犬に、地下室いっぱいにあふれたりんご酒に、散らかりっぱなしの台所。さらに、なぜか大きな鍋の中でうめいている旦那なのですから。
ほーら、言わんこっちゃない!
なんてね、言わないんです、かしこい奥さんは。たとえ鍋から出てきた旦那が、「まあ、すんだことはすんだこと」なんて言ったとしても。
だから、フリッツルの家族は、それからはいっそうなかよく、しあわせに、暮らしたんですって。
・・・・・・・
「The Husband Who Was to Mind the House」というタイトルでノルウェーの民話集に収録されていた物語だそうです。
日本でのタイトル「すんだことはすんだこと」と物語の内容がなんだか結びつかなくて、それでまた可笑しみがましてくるのですが、よく見てみると、ガアグによる再話絵本の原書のタイトルが「GONE IS GONE」。
この言葉が、ただただ笑っちゃうこのドタバタ劇に、ウィットに富んだ人生訓をちょい足ししてくれます。
こんなこともあるよね、人間だもの。いつまでもこだわっていないで、前みよ前、ってね。
今、こちらの佐々木マキさんの訳の本は出版されておらず、出版社が変わり、新しい訳者のこみやゆうさんが「くよくよしてもしかたがない」と訳しています。いい言葉だし、どちらもよいと思うのですが、個人的には前作のほうがナンセンスなおまいう感が大きくて好みです。
同じお話しの絵本版もあります。最後の決め台詞は出てきませんが(そもそも元のお話にはなかったはず)、お話がコンパクトリズムよくまとまっていて楽しい。絵も訳も妙味があってよいです。