なにもない海。
波も、鳥も、月も。
ただ、空いちめんに、銀の粉になって、星が散るばかりの、夜の海で、ふたりは出会いました。
やさしい、大きなくじらと、ビロードのようにうつくしい肌の、すこし甘えんぼうのいるか。
くじらは、本を読むのが好きで、詩や物語も書いて、ビールが好きで、もちものは、みんな、口の中にいれています。
いるかは、体操が得意で、あたまをなでてもらうのが好きで、お茶が好きで、部屋には、いっぱいものが置いてあります。
いるかのうちで、それぞれの「かなり」を、いいな、と思う日もあります。
くじらのうちの、シャボン玉のような光のなかで、ふたりでビールを飲みながら、眠ってしまう日もあります。
パリのモードに憧れるくじらが、しばらくパリへ行って過ごしたり、人魚に手紙を書いたり、誕生日を祝ったり、哲学をしたり、恋をしたり。こわがりのときのいるかが、夜、くじらに、あたまをなでてもらって、たのしい思い出のはなしをしたり。
一緒の時間と、それぞれの時間と、海の時間とで紡がれた物語が、ゆらゆらとたゆたい続けます。
・ ・ ・
詩のような物語のあいだに、物語のような詩がはいった、童話集です。
工藤直子さんの物語に登場する、動物や虫、自然の木々や花たちは、みんな、こころにちいさな想いがあって、その想いが叶っても、叶わなくても、あるがままに受け入れ、しなやかです。自分だけでなく、相手も受け入れ尊重します。
みんな、あまり深く考えないで、ちょうどいい大きさの満足を持っていて、そのことが読者をも安らがせてくれます。
理屈なんて、おいといて、耳をすまそ。
草原のともだちの話もありますhttps://kotori-ehon.com/kotoribunko/tomodati-midori/
【この本のこと】
「ともだちは海のにおい」
工藤直子 作
長新太 絵
理論社
【だれにおすすめ?】
自分で読むなら、中学年くらいから。もう少し小さい子に、読んであげてもたのしいです。
とてものんびり、ゆったりした気分になるので、休日や夜の時間のあるときに、おとなの人にも読んでみてほしいです。
コメント