少女ソフィアの夏

ー気づかないうちに、日ごとに夜が暗くなっていたのだ。そして八月のある夜、用たしに外へでると、思いがけなく真っ暗になっていて、あたたかくて黒い偉大な静寂が、家をつつみこんでいた。まだ夏が続いているのに、その夏にはもう生気はなく静止しているだけだし、秋だって、やってくる用意もできていない。星もまだなくて、闇ばかりだ。          
     
(本文より)

7月の早朝。ベランダの前の茂みに、入れ歯を落とし、探しているおばあちゃんに、ソフィアが声をかける。

やっとみつかった入れ歯を、入れるとこを見られるのを拒みながら、鮮やかにカパッとはめるおばあちゃんに、ソフィアは、聞く。

「おばあちゃん、いつ死ぬの?」

そして、ふたりは、父親に禁止されている危険な岩の岬へ、おばあちゃんを先頭に、朝の美しい散歩へ出かけるのだった・・

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夏の間の数ヶ月間を、フィンランド湾の多島域の沖にあるちいさな岩の島で暮す、ソフィアと、おばあちゃんと、パパ。

多感で無垢な少女、ソフィアは、そのほとんどの時間を、自然と、自分と、おばちゃんを相手に過ごします。

そのすべてに、全身全霊を、まっすぐにぶつけながら。

よき遊び相手、ケンカ相手でもあるおばあちゃんは、少女が、恐怖や、怒りや、憎しみとも向き合わなくてはいけないとき、気づかれないようにそっと手をさしのべます。

不器用ながら、ソフィアも、しかり。

成長し、老いるという、当たり前のことを認め合い、お互いの尊厳を守り合うこと、ぶつかり、受け入れ、時には、がまんをし合うこと。

荒々しい自然の中で育まれたふたりの関係は、清々しく、変化はあっても決してこわれることなく、たくましいです。

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印象的なエピソードや、会話で編まれる物語ですが、親愛をこめて描写される、美しいフィンランドの自然と同じく、小さな石ころ、感情、言葉のひとつひとつがそこにあることが大切で、どれひとつ欠いても、とりだしても、成り立たちません。

夏の終わりごとに、何度再読しても、飛ばし読むことはできず、駆け足で読み抜けて、まだ終わらずに浸りきれないふたつの夏の思い出を、持て余すことになるのでした。

 

【この本のこと】

「少女ソフィアの夏」
トーベ・ヤンソン 作 渡部 翠 訳 講談社

【だれにおすすめ?】

小学校高学年から

ムーミンの作者、トーベ・ヤンソンが、子ども時代を過ごした多島海を舞台に、少女と祖母の姿を描いてます。

児童書として出版していて、決して難しくはないのですが、きちんとした文学です。

美しく厳しく深い、情景、心理描写は、文字を追ううちにページの向こうへ入り込む、あの読書の醍醐味を味わうことができます。

 

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