むぎ谷村のドングリ通りに、お母さんお父さんと住む、ロバのシルベスターは、変わった形や色の小石を集めることが、たのしみでした。
夏休みのある雨の日に、シルベスターは、池のほとりで変わった石を見つけます。燃えるように赤く、ビー玉のようにまん丸の小石。
その小石を持ったまま、ふと「雨がやんでくれたらなあ」と口にすると、雨がやみました。あれ?と思って「もう1度、雨がふらないかなあ」というと、どっとふりだしました。
そう、これは、願いがかなう魔法の小石だったのです。
本を開いた最初のページから、シルベスターの家族が、とても落ち着いて、きちんとした暮らしを営んでいるのが、伝わってきます。
けれど、しあわせな家族の物語なのだな、と思ったのもつかの間。
魔法の小石を手に、意気揚々と家に帰る道すがら、ライオンとばったり会ってしまったシルベスターは、思わず「岩になりたい!」と願ってしまうのです。
岩になったシルベスターに、もう、なすすべはありません。小石は、傍に転がっていますが、役には立ちません。誰かがその小石を見つけて手に持ち、隣の岩がロバになりますように、なんて願ってくれることなんて、あるわけがないですもの・・・
家では、もちろん、両親が心配で泣き暮れ、悲しみに沈みながらも、できる手立はすべて尽くしていますが、まさか岩になっているなんて、思いもしません。ただ、くよくよと息子のことを思い出しながら時間が過ぎていきます。
シルベスターも、やがて絶望し、やりきれなさを抱えているよりも、いっそ岩になりきることを選びます。
それぞれの時が流れ、秋がすぎ、冬がすぎ、春になり・・・
・ ・ ・
読んでもらっている子どもたちは、この、予想外に暗転する物語に、息をつめます。
だって!
こんなに絶望的な事態、子どもには、想像することすら、できないですもの。岩になってしまう、というのも当然恐ろしいですけれど、両親の悲しみも、子どもたちの胸を痛めるのです。
でもね、季節のほころびとともに、ちゃんと解決の時がやってきます。そのハッピーエンドを連れてくるのは、もちろん、お父さんお母さん。
親っていうのは、子どものことにはいつだって勘が働くし、知らず知らずのうちにも、子どもの手伝いをしてしまうものなんですよね・・・本当に、本当に。こんな奇跡の連続のようなクライマックスだって、私には、とても自然なことにしか、思えません。
これぞ、大円団。
親子の絆って、すごいんだって、大満足できる絵本です。
【この本のこと】
「ロバのシルベスターとまほうの小石」
ウィリアム・スタイグ 作
せたていじ 訳
評論社
(写真は旧版です。現在は、印刷や版形が少し変わっています)
【だれにおすすめ?】
読んであげるなら、5歳くらいから。
文章は少し長めですが、次にどうなるのかが気になり、長さはまったく感じさせません。
一緒に読んでいる子どもの緊張や喜びや静かな興奮が、最初から最後まで、こんなに手に取るように感じられる絵本もあまりないと思います。しかも、何度読んだって、色あせない。
よくできたストーリーに、丁寧な描写、的確な言葉。全体をおおう、親が子を思う力。
お父さんやお母さんが何とかしてくれる、そう信じさせてくれることが、この絵本の魅力の源かもしれません。
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