わたしが最初に出会ったオオカミは、赤ずきんや子やぎを食べ、こぶたたちを追い詰める、怖い悪者でした。
けれど、いつからか・・・「やっぱりおおかみ」がはじめだったでしょうか、それから「なぞなぞのすきな女の子」や「ポリーとはらぺこおおかみ」などを読んだからでしょうか、いつの間にか、わたしの中のおおかみは、怖い存在だけど意外におとぼけ、に変わっていきました。
「あらしのよるに」や「ともだちや」や「ぶたのたね」などのシリーズが人気で、あの赤ずきんや三びきのこぶたですらパロディ絵本になっている現代では、おおかみは、怖そうに見えるけどそうでもない、憎めないキャラとして、定着しているようにも思えます。
強面の独り者であたまはそれほどよろしくない・・・いじりがいのある存在なのかもしれないですね。
森でおおかみに会い、さっそくぱくっと食べられてしまったねずみ。
一巻の終わりのようですが、物語は、ここから始まります。
おおかみのお腹の中には、先客がいて、このあひるが、実に悠々自適に暮らしているのです。曰く、「おおかみの おなかの なかって、けっこう いろいろ てに はいるのさ」
朝ごはんは、テーブルにクロスまでかけて、ジャムつきのパンを。おひるご飯は野菜スープを調理して。なにしろ、ここにいればおおかみに食べられる心配をしなくて済むのですから、レコードかけてダンスもありの、のびのび好き放題。
欲しいものがあれば、大きな声で「上等のチーズとワインを丸ごと飲み込めば元気になる」なんて叫べば、おおかみは、自分のおなかの声を信じてその通りにしてしまうのですから、ふたりは、おおかみがいつまでも元気でいてくれますように!と願っています。
ところが、おなかの中でそんなどんちゃん騒ぎをされているおおかみは、具合が悪くなってしまい・・・
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それにしても、たしかに、赤ずきんちゃんも子やぎたちも、結局無事に出てこられていたし、もしかして、おおかみのおなかの中って、わりと居心地が良かったりして?!
最初から奇想天外な始まりですが、その後の展開も、どれも想像の一歩も二歩も先で、びっくりするやら可笑しいやら・・・
ねずみとあひるが、どうやって狩人に狙われたおおかみを助け、また望み通りの暮らしを手にするのか、きっと思いもよらないと思いますので、ぜひ、お楽しみに読んでみてください♪
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作者のマック・バーネットは、ここ数年、日本でも、今までにない様々な面白さの絵本が出版される、注目の絵本作家。数年前のTEDでのプレゼンテーションがネットの動画で見られますが、とてもおもしろい人だなあと思います。
こちらも近年人気のジョン・クラッセンの絵も、セピアがかった色合いと飄々とつかみどころのない空気で、私たちを煙に巻いてお話の世界へいざないます。
【この本のこと】
「おおかみのおなかのなかで」
マック・バーネット 文
ジョン・クラッセン 絵
なかがわちひろ 訳 徳間書店
【誰におすすめ?】
読んであげるなら、4、5歳くらいから。
テキストは少なく、行間を読むような可笑しみなので、あまり小さい子より、小学生くらいの方が、より楽しめそう。必ずウケる、小学校での読み聞かせの新定番になりそうですね。