夏の午後の、静かさが好きです。
なにもかもが、いつもより大きくて、広くて、音は、そこに、吸い込まれてしまうみたいに静かで、ひとりでいると、ときどき、ふと、さみしさにつかまる一瞬もあります。
夢のなかに、とりのこされたみたいな、こころぼそさと、開放感。
境界線がぼやけていく、曖昧で、自由な時間。
文字がほとんどなく、大きな空と海と砂浜が広がる絵本です。
高く高く澄んだ、青い空。焼けて熱い、海辺の白い砂山。小さな真っ黒ののらいぬが、歩いてきます。砂に寝転ぶ男の子をみつけて、そばに寝転ぶ犬。一緒に走りだし、並んで灯台を目指し、芽生えたかのような絆でしたが、灯台のてっぺんから、男の子は、海に消えてしまいます。
ひとりぼっちののらいぬのみた、夢でしょうか?それとも、男の子の夢?ほんとうに・・・?
ひらくたびに、いろいろな表情をみせてくれる、絵本です。おだやかな海の波みたいに、肌にふれるぬるいそよ風みたいに、こころが、さわさわ動きます。
【この本のこと】
「のらいぬ」 谷内こうた 作 至光社
【だれにおすすめ?】
澄みわたった夏の光景に添えられた短い言葉をたどるだけで、小さな子にも「何か」が心に残ると思います。
もう少し大きくなると、その「何か」が気になったり、なんとなくわかるような気がしたり、掴めたような気がしたり・・・年齢を問わず、長く付き合える絵本です。
無駄のない表紙もさわやかで、絵のように飾っておきたくもなります。そう、額にはいった一枚の絵が、知らぬ間に動き出したような、不思議な感覚の絵本です。