気がつけば、毎日の風景の中に、緑がふえていました。
いつの間に背の丈の高くなった、道ばたの草花の中に、みなれない葉っぱをみつけて、足をとめ。枝一杯に花をつけた梅の木を見上げ。ポツポツ顔を出すつくしをみつけ。
ふくらんだきた桜のつぼみに、こころ弾ませ。
ああ、
今、ここで、こうしている、
私でよかったあ。
って、それはもう、明快に、思います。
過去も未来も、わたしの持っている、ぜんぶの時間と、地球の時間が、きちんと、つながっているという、実感。
それを、季節は、必要なときに、ちゃんと、届けてくれます。
はるが きて
めが さめて
くまさん ぼんやり かんがえた
さいているのは たんぽぽだが
ええと ぼくは だれだっけ
だれだっけ
はるが きて
めが さめて
くまさん ぼんやり かわに きた
みずに うつった いいかお みて
そうだ ぼくは くまだった
よかったな
・ ・ ・
まどさんのことばから流れた風が、たどりつくゆたかな森の中では、どうぶつも、ちいさな虫も、自然も、みんなよろこんでいます。
今のじぶんのあるようすに。
自分をとりまく世界の、あるようすに。
この詩集のなかにあるのは、いちばん大切で、とてもシンプルな、満ち足りた毎日です。
表題にもなっている「くまさん」は、真島節子さんの素朴であたたかな絵で、幼い子向けの絵本にもなっています。
寒さのゆるんだ山で目を覚ましたこぐまが、野に下りながら、春に、自分に、気がつく様子がのんびりと描かれ、つくし、ふきのとう、すみれ、たんぽぽなどの芽吹きや、虫や小さな生き物の営みも、あちこちに。
うすい空の色をみても、色づき始めた野山をみても、表情の見えない生き物たちの様子からすらも、もちろんくまさんからも、よろこびがあふれています。
【この本のこと】
「くまさん」
まど・みちお 詩 ましませつこ 絵 こぐま社
「くまさん」
まどみちお 童話屋
【だれにおすすめ?】
絵本は、2、3歳の幼児から楽しめます。親子で絵本の中に春を見つける時間は、とってもよいものだと思います。
春先のお話会などでの、導入にも。
手のひらにすっぽりおさまる小さな詩集は、小学生は、小さなものたちの声を聞くことのできる読み物としても楽しめます。おとなは、そこからさらに広い世界に触れることもできると思います。
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