少女の引越してきた家のむかいには、町の人が「なぞのひと」よぶ女性が、妹と一緒に住んでいました。
その人は、20年ちかくも、家のそとにでたことがなく、知らない人がくると、たちまちどこかへ、かくれてしまうそうです。
そして、花が好きで、詩をかいているとか・・・
ある日、一通の手紙が、少女の家のドアの、郵便の受け口から、投げ込まれました。
すぐに、ドアをあけてみましたが、外にはただ、まっしろな冬がたたずんでいただけ。そして、足あとが、少女の家の玄関から、道をわたり、おむかいの黄色い家まで、続いていました。
手紙には、少女のお母さんに、春をよぶピアノを弾きにきてほしいと、あります。
お母さんについて、黄色い家にはいった少女は、ピアノの部屋をそっとぬけだし・・・
人嫌いと言われたけれど、子どもたちにはとてもやさしかったという、詩人エミリー・ディキンソンと、かわいらしい少女の小さな友情、こころの交流のものがたり。
そして、曇りのない目で世の中をみつめ、たくさんのふしぎに、こころをふるわせる人たちのものがたり。
春をよぶ、ものがたり。
・ ・ ・
ー この世の中には、ふしぎななぞが、たくさん、あります。
この絵本は、そんな言葉でしめくくられています。
そのなぞに気がつかなければ、答えをみつけることも、できないのでしょう。驚きやよろこびは、すべて、なぞと答えの間にあるのかもしれません。
だれとも会いたがらない、ふしぎな隣人を想い、かさかさで、死んでいるようにみえる球根の中にひそんでいる命やあたたかくなると姿を現す美しい花をこころに描き、小さな春のかけらをあつめながら、じっと待つ。
そんな、なぞと答えの間の中に。
【この本のこと】
「エミリー」
マイケル・ビダード 文
バーバラ・クーニー 絵
掛川恭子 訳
ほるぷ出版
【だれにおすすめ?】
読んであげるなら、5、6歳くらいから。
主人公の女の子は、もう少し上でしょうか。
母がクーニーの絵本が大好きで、わたしも、10代の頃から何度も読みましたが、本当の意味で心に響くようになったのは、この10年くらい。おとなの人、子育てをするお母さんにもおすすめの絵本です。
一見なんの変哲もないけれど、物語の潜んでいそうな表紙。巻末に画法が書かれていますが、1枚1枚、どの絵も素晴らしいです。
モデルになっているエミリー・ディキンソンの詩を手にするきっかけにも。
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