切手にコイン、人形やジュースのびんのふた。
みなさんも集めたこと、ありませんか?
わたしの父は子どものころ、石を集めていました。
ひまを見つけては、石垣のまわりや古い採石場をさがして歩きました。
まわりの人たちはいったそうです。
「あいつは、ポケットにもあたまのなかにも
石ころがつまっているのさ」
たしかにそうかもしれません。
ープロローグよりー
この絵本は、石ころ集めが大好きだったお父さんの話を、おとなになり、子どもの本の作家になった作者が語ったノンフィクションです。
石ころ、昆虫、電車、工作、絵画、星、映画・・・
「あんたは、勉強もそれくらい一生懸命やってくれたらねえ」なんて言われながら、夢中になっていた時期は、多くの人にあると思います。
やがて、成長とともに視界は広がり、興味の枝は多方向に伸びていきます。そうして、春には花を夏には緑をつけ、小鳥がとびかう、そんな木もすてきです。
でも、中には、竹のようにまっすぐに、スーッと伸びたままの人もいるのです。
この、お父さんのような。
小さな頃から、石を集めることが大好き。
そのまま、あたまにつめた石ころを、手放すことなく、だからお金儲けや身の丈以上の成功への欲がはいる隙間はなく、どんな時代でも、おだやかでマイペースな表情のままでいられる、お父さん。
作者の語り口から、そのことがもたらした、家族の平穏でささやかな幸せも、伝わってきます。
そして、その先にあった、とても大きなサプライズ・・・
道は、どこにでもつながっていて、歩いて行ったほうに、辿り着くのです。
・ ・ ・
一編の良質なドキュメンタリー映画のような、静かで深い感動が残る、絵本です。
一度手放した石ころを忘れられないおとなには、ふたたび手を伸ばすきっかけを
手放すべきか迷っている若者には、大きな可能性を
そしてなにより、夢中になるものと、夢中であり続ける才能に恵まれた人たちに、そのまま突き進んでいく力をくれます。
たとえ、いつかは手放す日がきてしまうにしても。
人からみたら、価値のないことに見えるかもしれないけど、ね。
【この本のこと】
「あたまにつまった石ころが」
キャロル・オーティス・ハースト 文 ジェイムズ・スティーブンソン 絵
千葉茂樹 訳 光村教育図書
【だれにおすすめ?】
好きなこと、嫌いなこと、将来のこと、自分のこと
そんなことをぼんやりと考えはじめる、小学校高学年くらいからの子に、おすすめしたいです。
中学や高校生の子たちにも。そして、子どもたちのそばにいる、おとなの人にも。
卒業シーズンに読みたい絵本。夢中になることは才能だから、胸を張って、歩いてね、と。
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