「やさしさ」って、なんだろう。
この絵本を読んだときに、その答えを見つけたかもしれないと思い、小さく衝撃を受けました。
シルクハット族は、夜中の1時にやってきます。
黒いシルクハットに、黒いマント(靴と服は黒っぽくまとめているけど自由らしい)。何人いるのかわからず。もの音ひとつさせず、何もしゃべらず。
夜中の1時。集まった彼らは、お互いの顔をぐるりと見渡し、大きくひとつうなずくと、空へと舞い上がります。
そうして家々を巡り、窓のすきまをするりと抜けて、枕元に立った彼らは掛け布団の四隅をそっと持つと、ちょっとだけ・・・かけ直す。あっちの家でも、こっちの家でも、一緒に眠る親子にも本を読みながら寝落ちしたおじいさんにも、ジャングルのハンモックでも遊牧民のテントでも外国のお金持ちにも牢屋の中の囚人にも、そっと忍び寄り、ちょっとだけ、ふとんをかけ直す。
だあれにも、気づかれないように。口元に、いたずらっこにも見えるような、小さな笑みを浮かべながら、ちょっとだけ、ちょっとだけ。
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やさしさって、なんでしょう。
いつもうれしいことを言ってくれる人、困っている人を見かけたら手を差し伸べる人、誰もやらない場所を毎日掃除している人、自分のことより相手のことを考える人・・・どれもやさしいけれど、別の言葉で置きかえることもできるような気がします。
見返りを求めないことや、平等さも忘れてはいけないし、やさしさだと思ったことが捉え方によって、ひっくり返ってしまうこともあるかもしれません。
やさしさは、きっともっと、ささやかなこと。誰の中にもあるようなこと。寄り添う、というようなこと。
やらずにいられないことで、ないと成り立たない、というほどではなくて・・・そう、ちょっとだけふとんをかけ直すようなこと。
シルクハット族の正体は、わたしたちの中にある、やさしさ。きっとそうだと思います。
この絵本のこと
「シルクハットぞくはよなかのいちじにやってくる」
おくはらゆめ 作
童心社
どんな人におすすめ
読んであげるなら、4歳くらいから。
おくはらゆめさんの絵本は、のーーーんびりしていて、でも、どこか本質をつかれているような捉えられない魅力があり、大好きです。中でもこの絵本は、誰もまだ形にしたことのない「やさしさ」の姿が描かれていて、奇跡的とすら思ってしまいます。
つかれた夜、この絵本を読みきかせると、世の中の、自分の中の、やさしさに触れられて穏やかな気持ちになりますよ♪
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