東京に住んでいた頃、夏の、夕方から夜にかけての時間が、とても好きでした。
夕方の商店街は、ほどよくにぎやかで、昼間の暑さから開放されて、ゆるやかな雰囲気が漂います。ただアイスを買いに、という感じで歩いている人や、入り口をちょっとあけて風をとおしている居酒屋さんのカウンターで、おいしそうにビールを飲む人たち。
商店街をすぎ、公園の脇を通ると、ふと感じる、オシロイバナの存在。
住宅街にはいれば、網戸越しに、暮らしの音や、晩ごはんのにおいが、流れてきて・・・
ノスタルジックな想いが横切る、夏の夕方。
絵本「きょうのごはん」では、1匹ののらねこが、夕方の商店街を歩きながら、おいしそうなにおいのするおうちを、1軒ずつ、のぞいていきます。
あるおうちでは、こんがり焼けたサンマ、おとなりは、みんなで作ったカレーライス、そのおとなりは、お父さん得意のオムライス・・・画面いっぱいに描かれる、それぞれの晩ごはんは、どれもおいしそう!
そして、晩ごはんをいっそうおいしそうにしているのは、食卓のうしろにのぞくことのできる、背景。部屋の様子や、家族の姿から、その日流れていた時間や、それぞれの家庭の積み上げてきた空気が、ただよってきます。
夏の夕方、網戸ごしに流れてくる晩ごはんのにおいが運んでくるノスタルジーの正体は、どの窓の向こうにも、築かれてきた「今」があるという事実かもしれません。
夕方の風は気持ちよく、外から聞こえる、帰路につく子どもたちの声や虫や鳥の音は、ちょうどいいBGM。
窓をあけて、さあ、きょうは、何を作りましょうか。
【この本のこと】
「きょうのごはん」
加藤休ミ 作 偕成社
【だれにおすすめ?】
言葉よりも、絵でたのしむ絵本なので、年齢はあまり関係ありません。
とにかく、迫力のあるクレヨン画がとてもよいです。食べ物はもちろん、人々の表情や、町や家庭の様子も、イキイキホカホカしています。
ごはんを美味しくさせるのは、食べ物の力だけじゃないのですよね。
小さい子から、小学生、中学生、おとなまで、食いしん坊なら、誰でもぐっとくるはず!
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