手ぶくろの絵本は、たくさんあります。
中でも、赤い手ぶくろは、よく見かけます。
片方なくしてしまったお話も、多いです。
実際、不思議なくらい、手ぶくろの片っぽはなくなります。どんなに大事にして、気をつけていても、なくなります。今まで、どのくらいの手ぶくろをなくしてきたか・・・40歳を過ぎた今だって、片っぽになってしまった同士を合わせて、右と左で違う手ぶくろをはめているくらいです。
道端でも、ひとつ、ポツンとある手ぶくろを見かけます。
「片っぽになってしまった手ぶくろ」は誰にとっても身近で、だから、たくさんの物語が生まれるのかもしれません。
この絵本があたらしく本屋に並んだとき、ちょっとだけ、またか、と思ってしまいました。でも、やっぱり、手ぶくろは赤がよくて、落っこちてしまった手ぶくろは気になるのです。
雪に映える、きれいに揃った編み目のひとつひとつふっくらと描かれた赤い手ぶくろ。語るべき物語を秘めている、と直感でわかります。耳を澄ませるようにページをめくると・・・
小さな赤い手ぶくろは、右と左、いつも一緒に出かけます。ちびちゃんの手を、ふっくりふんわり、包みながら。
ちびちゃんが雪の玉を作るとき、手ぶくろたちは手伝ってあげます。はじめて雪だるまを作ったときも、力を合わせて手伝いました。
小さな手をがつめたくならないように、あしたもふわふわでいてあげようね。手ぶくろたちは、毎晩、ストーブのそばに並んで、そう約束するのでした。
でも、ある日、ちびちゃんは、木立の道で、右の手ぶくろをなくしてしまいます。左の手ぶくろだけが家に帰り、ストーブの火にあたります。ちびちゃんはあちこち探しますが見つからず、お母さんが、あたらしい右の手ぶくろを編んでくれました。
その頃、なくなってしまった右の手ぶくろは・・・
右の手ぶくろは、通りかかったきつねが枝にかけ、うさぎが見つけて子うさぎたちの帽子になり、わんぱくなねずみの兄弟の寝袋になり、鳩に拾われ、また飛ばされ、のびてほつれて穴があいて、最後にりすの手に渡ります。
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雪のつもる冬のある日、ちびちゃん、動物たち、左の手ぶくろ、右の手ぶくろーかわりばんこに垣間みているような、この絵本の主人公は、誰でしょうか。
持ち主のちびちゃんは、かわいらしい存在ですが、はっきりと顔は描かれません。動物たちは、それぞれの場面では主役ですが、次々にバトンタッチしていきます。
手ぶくろは、しゃべりません。意思があるわけでもなく、ただ時々、ふいと思いがのぞきます。
他の人には知られるよしもない、ある日あるときの、それぞれに流れている時間と気持ち。決して大袈裟に語られるわけでもなく、穏やかな言葉で紡がれる物語からただ伝わってくるそれが、こころに残ります。
ひととき交わったり、離れたり、感じたり、思い出したり、すれ違ったり。
繋がっていて、続いていく。いつも、その途中。
その途中に、こんなに幸せなことがあった。そんな物語です。
【この本のこと】
「あかいてぶくろ」
林木林 文 岡田千晶 絵
小峰書店
【どんな人におすすめ?】
読んであげるなら、4歳くらいから。
手ぶくろの絵本はたくさんありますが、手ぶくろが主人公でも、持ち主が主人公でもなく、手ぶくろをめぐって何かが起こることを描いているわけでもないこの絵本は、なんだか特別です。
小さな子には、かわいらしい物語。でも、それだけではないような、スケールの大きさを感じます。
ラストの6ページが、とても好き。
シンプルで、だからこそ目を引く表紙を開くと、見返しもまた見事。年齢を問わず、冬の贈りものにおすすめしたい絵本です。
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