新学期。
あたらしい生活がはじまった子どもたちは、ほんのささいなことにも、化学反応。なんでもエネルギーにかえて、内側から、ぴっかぴかに輝いていて、みなぎる気力を、まわりに惜しげもなくふりまいています。
こころが、元気な音を奏でやまない毎日。
うらやましいなあ、と思います。
でも。
おとなになったわたしたちは、毎日あたらしい宝ものを拾って、ポケットにふやすかわりに、見つけた石ころを、ずっとずっと大切にすることができるようになりました。
ゆっくりと時間をかけて磨いて、光らせることもできるし、いろいろな角度から何度も眺めているうちに、それまで見えなかった美しさに、ふと気がつくことも。
おとなは、自分のはやさで、歩くことができる。
おとなは、振り返ることができる。自分を眺めることができる。後悔をも愛でることができる。
ポケットにもはいりそうな、この小さな詩集の中に、キラキラの子どもたちとはまたちがう、おとなのいいところがつまっています。
ーアランブラ宮の壁の
いりくんだつるくさのように
わたしは迷うことが好きだ
出口から入って入り口をさがすことも
そう。
いそぎさえしなければ、決めつけさえしなければ、おとなには、たっぷりと時間があって、とても、自由。
ー一生おなじ歌を 歌い続けるのは
だいじなことです むずかしいことです
あの季節がやってくるたびに
おなじ歌しかうたわない 鳥のように
そう。
変わらない、ということの生む安らぎや、強さ。
【この本のこと】
「いそがなくてもいいんだよ」
岸田衿子 童話屋
【だれにおすすめ?】
おとなの女性に。
ときどき、なんだか気持ちがぽっかりとした時に、手にとりたい小さな詩集です。迷子になったときの地図のような。
子どもたちに、たくさんのおだやかな物語や言葉を紡いだ岸田衿子さん。おとなのポケットにも、こんな素敵な小石を残してくれました。
贈り物にもおすすめです。