いるべき場所でのびのびと「やまのかいしゃ」

ほげたさんは朝起きるのが苦手です。目覚まし時計がなっても奥さんに布団をめくられても起きらません。この日も、そんなこんなで会社に出かけて行くのが昼すぎになってしまい、それなりに急いで電車に飛び乗りました。

のんびり揺られるほげたさんを乗せた電車は、なぜかどんどん山の中に入っていき、やがてついた終点は山奥の駅。ほげたさんはしばし考え、「こうなったら今日はやまのかいしゃに行こう」と思い立ち、山の頂上に向かうことにしました。

ほげたさんが、おにぎりを食べたり、おにぎりを向かいの席のおばちゃんに踏まれたり、おにぎりから腕時計が出てきて驚いたりしている間に、車窓の景色はビルが立ち並ぶ賑やかな街からポツリポツリと木々に囲まれた家が見える校外へ、畑の広がる田舎へ、川が流れて山々が連なる山奥に変わっていきます。

それに静かに胸がときめいて、目も心も釘付けになってしまうあなたは、ほげたさんのように、やまのかいしゃが向いている人でしょう。

ほげたさんと一緒に、メガネも鞄もいらない「やまのかいしゃ」へ行き、なんとなく思いついたことをして過ごしましょう。

一方で、特別にはときめかない人がいても、いいのです。

ほげたさんが町の会社から呼び寄せた社長や同僚たちのように、ときどき「やまのかいしゃ」を楽しんで、またやりがいを求めて町の会社に帰るライフスタイルもまた一興です。

この絵本の心地よさは、それだなあと思います。

真面目だけどぼんやりしたほげたさんも、コミュ障っぽい駅員さんも、山奥から出勤していたことが発覚した疑うことを知らなそうな後輩のほいくさんも、とぼけてるのに行動力があって有能そうな社長さんも、やっぱり儲かったほうがいいなと我に返る同僚たちも。

さらには、つぶれたおにぎりや電車に転がる空き缶や畑の中を走るバスや、あちこちで見かける生き物たちや、木々や花々、雲や空気さえも。

みんなみんな、自分のいるべき場所で、自分の心が示すことをして、それをよしとされている。

受け入れられているし、受け入れている。

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最初から最後まで流れる、のびのびとした空気だけでも傑作。

自然の中で大きな空の下で、好き好きな仕事をしたりゴロゴロしたり、それを眺めているだけで、幸せ。

子どもたちが、仕事って楽しそうだなーって思ってくれたら、もう最高です。

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発売日:2018年05月  作者:スズキコージ(著), 片山健(絵)  レーベル:日本傑作絵本シリーズ 出版社: 福音館書店 ページ数:40p

1986年に母の友で掲載されたおはなしを、1991年に架空社さんが絵本化したのもが、2018年に福音館書店から再製版と一部文章を直して復刊されました。

この絵本に関する、スズキコージさんのインタビューなどはこちらで読めます↓

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スズキコージさんの「日常を楽しいことで打ち破る」という人生訓、いただきました!

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