私たち日本人にとって、鬼は、不思議な存在です。
21世紀になっても、
異世界に住むものの中でも
抜群の知名度、存在感。
誰も見たこともない、
たぶん・・・実在しないのに、
このリアリティー。
想像し得る悪事を一手に引き受け、
私たちの心の中に、住みついています。
鬼は「隠」からきた言葉だそうです。
山奥に住み、姿を見せない神さまが、
天災をもたらす恐ろしいものと想像されるようになり、
災いとともに人里にも現れるようになっていったとか。
やがて、地獄の門番や
節分の厄除けの役目も引き受けるようになり・・・
現代の私たちがよく知るのは、
その極悪非道ぶりから
物語の悪役を任されるようになった末、でしょうか。
そんな、長い時をへて鬼の像を伝える昔話を、絵本で3冊。
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桃太郎は岡山県、とおとなになってから教わりましたが、
松居直さんと赤羽末吉さんの「ももたろう」は
青森県南部で語り継がれてきたお話をもとにしています。
子どもに読むために書かれたテキストは、
声に出すと調子よく、読んでいてとても気持ちがいい。
赤羽末吉さんの絵は素晴らしくうまいのにユーモラスで、
鬼さえも憎むことができません。
そう、鬼は泣いて謝り、桃太郎は許し、
宝物はとらずに、お姫さまだけを助けて帰るのですが、
それはよくある現代風に骨抜きにされたものではなく、
その時代、風土が物語に根付いているからこそ。
明瞭なストーリー
見事であたたかいハッピーエンド
これぞ、日本の絵本!
3、4歳からたのしめるので、
男の子も女の子も、ぜひ通ってほしい絵本のうちの1冊です。
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「こぶじいさま」も、同じ、松居直さんと赤羽末吉さんのコンビの絵本。
大きなこぶのあるじいさまが、山で迷って鬼たちの宴に入りこみ、
そこで踊りがたいそう気に入られて、また明日もくるようにと、こぶをとられて帰されます。
その話を聞いて同じように出かけた隣のじいさまは、
うまく踊ることができずに、きのうのじいさまのこぶまでつけられてしまうのでした。
赤鬼青鬼、そして隣のじいさまの、オールスター。
踊りの調子は可笑しなリズムでおもしろく、
子どもはとてもよろこびます。
一方、鬼の話らしく、怖さや不気味さもちゃんとあるのも、この絵本の魅力ですね。
楽しいことや宴会好きの
鬼の一面も垣間見られます。
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最後は、「いっすんぼうし」。
子どものいないおじいさんおばあさんのもとに生まれた
親指ほどの小さな赤ん坊は、やがて成長し、
お椀を笠に、箸を杖に、針を刀にして、都へ旅に出ることに。
ついた都で訪ねた立派なお屋敷には、美しい姫がいて・・・
小さな一寸法師が都を荒す悪い鬼を
針の刀一本で退治する場面が見せ場ですが、
この絵本では絵巻物のように
すべての場面が途切れることなく流れ、等しく意味を持ちます。
いっすんぼうしは、
「御伽草紙」に書かれた由緒ある物語ですし、
その舞台は京都、平安の世。
石井桃子さんの優しくも凛とした言葉と
日本画家の秋野不矩さんの雅な絵で、
気品ある一編の冒険譚になっています。
わたしのいっすんぼうしの記憶は、
ほぼ、打ち出の小槌でしたけどね♪
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鬼に関する記述は、この絵本を参考にしました。
見えない神様だった鬼が
今のような姿になっていったのも、
人々がその存在を必要としていたから。
「ほら、言うことを聞かないと鬼がくるよ!」と
話すお母さんがいる限り、現代の鬼も、安泰ですね。
【この本のこと】
「ももたろう」
松居直 文 赤羽末吉 絵 福音館書店
「こぶとりじい」
松居直 再話 赤羽末吉 絵 福音館書店
「いっすんぼうし」
石井桃子 文 秋野不矩 絵 福音館書店
「メルヘン博物館シリーズ おに」
西本 鶏介 文 村上 幸一 絵 佼成出版社
【だれにおすすめ?】
日本の昔話に触れる機会は、減っているように思います。
数え切れないほどある昔話を
1冊1冊絵本で読むのはきりがないし、
童話で読むのもハードルが高い。
けれど、昔話には生きる知恵がつまり、
語り継がれた物語には
一朝一夕では生まれない面白みがあります。
たくさんじゃなくてもいいので、
合う絵本や物語集を見つけて、楽しんでいきたいですね。


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