100年以上前のアメリカで、
かごをつくって暮らしていた人たちの、おはなしです。
主人公で語り手の8才の少年とその両親、
あとはたったふたりのかご職人が住んでいるだけの
小さな山間の集落。
そこで暮らす人たちはつつましく、勤勉な生活を営み、
少年は当たり前のように、父の背中に憧れを抱きます。
無口で、もくもくとかごを作る
太い指のおとなたちが少年に教えるのは、
自分たちの姿をよくみることと、山の木の声をよく聞くこと。
少年は、その教えを守りながら、
とうさんが一緒に町に連れて行ってくれる、一人前と認めてくれる日を
まって、まって、まっていました。
けれど、ようやくやってきたその日に、待ち受けていたのは・・・
篤実な語り口と
おさえられた色調の絵が紡ぎだすのは、
地に足をつけ、自らのやれることやるべきことを仕事として生活することの尊さ。
その上で、誇りや満足は後からついてくるということ。
そして、町の人にかご作りをバカにされ
一度は信じていたものが見えなくなってしまうものの、
他ではない、その信じていたものたちによって、進むべき道にみちびかれ
また満月をまつ少年の心の動きが、すばらしい。
どっしりと変わらないものと、
少しずつ変化するもので編み上げられた物語です。
変わらないのは、職人たちの信念や、自然が与えてくれるもの。
少しずつ変化するものは、たとえば時。季節。
それから、少年のこころ。
物語は、職人のつくるカゴと同様、飾り気がなく、
ゆっくりと、ゆっくりと、沁み入ります。
バーバラ・クーニーの、最後の作品です。
・ ・ ・
【この本のこと】
「満月をまって」
メアリー・リン・レイ 文 バーバラ・クーニー 絵
掛川恭子 訳 あすなろ書房
【だれにおすすめ?】
長く、静かな物語で
小学生からの絵本になると思います。
なりたい仕事へ、1歩を踏み出す
子ども、おとなへの贈り物にも。
お話も絵も、地味で目立ちませんが、
ゆっくりと文字を追い、静かな声にも耳を傾け、想像すること。
そのたのしさをじっくりと、味わえます。
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