小さな頃、子ども部屋には、茶色い三角屋根の鳩時計がありました。あの、扉から顔を出す鳩の、形の、声の、存在の、可愛かったこと!
おとなになり、自分の家を持ったときに、迷わず鳩時計を壁にかけたのでした。
のどかで、平和な、独特の時間を紡ぐ・・・そんな愛すべき鳩時計のおはなしです。
スイスの小さな村の時計やさんの店の中は、鳩時計でいっぱいでした。壁にずらりと、おぎょうぎよく、ちんまりと、かかっています。
一じのときは「ポッポー」
二じのときは「ポッポー」「ポッポー」
こんなふうに、昼も夜も、どの時計の鳩も、いっしょになくのですが、一羽の鳩だけ、ちがっていました。いつも、ほかの鳩より、すこしおくれるのです。
時計のほうは、合っているのに・・
でも、時計やさんも、村の子どももおとなも、この鳩時計が好きでした。すこしおくれてなく様子をみると、いつも、にっこりしてしまうのでした。
ところがある日・・・
ふんわりしたきいろを基調にした、スロボドキンの絵は、いつもながら朗らかさとやさしさで、いっぱい。
すこし長めの文章で描かれるエピソードは、ひとつひとつ、大切。ゆっくりとたどっていくだけで、こころのなかに、鳩時計のなっている間のような、ぽっかりとした時間と場所を作ってくれます。
時計に正確さは必須ですが、鳩時計には、そうともかぎらないのです。わたしたちが鳩時計に求めるものは、何よりも、なごみですもの。
時計やさんのおじさんが、ねぼすけのはとどけいのために考えた、愛情とユーモアたっぷりのしかけ。正確さとなごみの両立をやってのけたしかけ、とってもすてきです。
【この本のこと】
「ねぼすけはとどけい」
ルイス・スロボドキン 作
くりやがわけいこ 訳
偕成社
【だれにおすすめ?】
読んであげるなら、4、5歳くらいから。
お話は長めですが、急がずにゆっくり、ゆったり、読みたい絵本です。
スロボドキンの本はいつもそうですが、会話や小さなエピソードの一つ一つが優しい。読むと、とてもおだやかな気持ちになるので、大好きです。慌ただしい時にこそ、手に取ってみてほしいです。