深まる秋。
しん、としたこころに、とびきり美しい物語は、いかがですか?
静かで、長い夜に、清らかな余韻が、ゆっくり、ゆっくり、広がって・・・
昔、広くて平和な国をおさめている、王さまとお妃さまがありました。
好きなものに囲まれ、ふたりともそれはそれは幸せでしたが、ひとつだけ・・・子どもがいないことに、心を痛めていました。
あるとき、お城にやってきた旅人から、不思議な話をきいたふたりは、魔法使いのもとを訪れ、子どもを授けてもらうかわりに金貨をわたすことを、約束します。
けれど、お金が大好きだった王さまは、魔法使いとの約束をごまかしてしまい、生まれてきた子どもは、ロバの姿をしていました。
きちんと教育を受け、努力をし、立場にふさわしく、立派に育つ王子ですが、王さまもお妃さまも、ロバの姿の息子を愛することができず、子どもたちは正直にばかにします。
「どこかに いってしまおう。ロバっこおうじさまなんかでいなくても すむ どこか とおいところへ・・・」
ある日、王子は決意し、得意のリュートを背負って、生まれた国をあとにします。
そして、長いさすらいの日々ののち、ある立派なお城でリュートを気に入られ、逗留することになり・・・
・ ・ ・
痛いほどの切なさの向こうには、昔話らしい、とびきり美しく、ロマンチックなハッピーエンドが待っています。
みずみずしいクーニーの絵。ゆったりと紡がれる豊かな言葉の流れ
でも、何より強く、こころに残るのは、自分らしくふるまうようになってからの、ただ、それだけでいきいきと胸を張る、王子の姿。
ありのままだからこそ、手にすることのできたー
そして、相手のありのままを受け入れ、認めることができたからこそ訪れた幸せが、あたたかく胸をうちます。
【この本のこと】
「ロバのおうじ」
グリム童話より M.ジーン・クレイグ 再話
バーバラ・クーニー 絵 もぎかずこ 訳 ほるぷ出版
【だれにおすすめ?】
しっかりとした物語なので、じっくり味わえる5、6歳から。
小学生のひとり読みにも向いています。
自分らしく生きること、自分以外の人のありのままを認めることーその上に幸せは訪れること。
この大切なメッセージは、思春期以降の子どもたちにも伝えたいなと、思います。
どのページも、とびきりに美しいので、年齢問わず、贈り物にもおすすめです。
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