一通の手紙からはじまる、冒険です。
だれの?
受取人の少女メリーの、ではなく、メリーの大切にしている兵隊の人形、ビルにとってのたいへんな冒険のおはなしです。
メリーのおばさんから、お泊まりのご招待の手紙が届きました。
さっそく返事をだし、たいせつなものをトランクにつめるメリーですが、だしたり、いれたり、だしたり、いれたりをくり返すうちに、肝心のビルを、トランクに入れ忘れて、出発してしまいます。
なんて、かわいそうなビル!
男泣きにくれるビルですが、スクッとたちあがり、列車を追いかける、追いかける、追いかける・・・
はたして、みんなそろってハッピーエンドを迎えることは、できるのでしょうか?
・ ・ ・
ストーリーは、とてもシンプル。
けれど、その分、絵が饒舌にものがたります。
お人形に笛に、手袋に靴にブラシにティーポットに、おもちゃたち・・・そんな実に少女らしい持ち物を、どうにか詰め込むために入れ直すようすが、なんども描かれる場面は、子どもの共感を呼ぶだけでなく、メリーがどんなにそれらを愛用しているか、それにメリーのきちんとした性格まで、伝わります。
もの言わぬおもちゃたちも、その「もの」らしさを失わないのに、よく見ると、表情やからだの小さな動きで、気持ちを豊かに語っています。
大きく、躍動感のある絵と、短い言葉がぴったりとあい、動きのある、すばらしく爽快な絵本です。
【この本のこと】
「かしこいビル」
ウィリアム・ニコルソン 作
まつおかきょうこ
よしだしんいち 訳
ペンギン社
【だれにおすすめ?】
読んであげるなら、2、3歳くらいから。
とても短いので、小さな子から楽しめますが、ぜひ、もう少し大きな子たちにも楽しんでほしいと思います。
長い期間、くりかえし読みたい絵本の中の1冊で、読む側としては、短いというのも、うれしいのです。
巻末に、訳者の吉田新一さんの解説があるのですが、それを読むと、描きすぎず、描かなすぎず、いかに矛盾なく絵と物語を紡いでいるかが、わかって、いっそう面白いです。
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