どんなに満ち足りた生活をおくっていても、ふと、いつもと違う道をえらんでしまいたくなること、きっと、だれにだって、ありますよね。
この絵本は、毎日毎日くり返される、町の奥さんがたとの天気のはなしにうんざりしてしまった、ミルクやさんのおはなしです。
プチ逃避行と、おなじみの毎日と、両方が愛おしくなる、おはなし。
ある日、いつものように、車に愛犬のシルビアと荷物を積んだミルクやさんでしたが、誰の家の前にもとまらず、町を通り抜けてしまいます。
「シルビア、おもいきりしっぽをふっていいんだぜ。今日は、とまったりはしったりしない。とびおりたりとびのったりもなし。おもて通りもうら通りもなければ、お天気のはなしもなし。アメリア(愛車)の気のむくままにぶっとばすんだ」
わかれ道では、コインをなげて、ミルクやチーズとひきかえに、ガソリンや氷を手に入れて。道のむくまま、気のむくままに、旅をつづけたふたりは、やがて、森のなかの、きれいで静かなみずうみに、たどりつきます。
・ ・ ・
そこで、こころゆくまで、好きなことをしてくらすふたりの、なんて、なんて、気持ちよさそうなこと!
こころゆくまで・・・
いい響き。
そして、こころが十分に満足したころ、ミルクやさんは、奥さんがたや、天気のはなしがなつかしくなり、自分を待っていてくれる、いつもの毎日に、もどっていくのでした。
毎日をないがしろにしていたら、待っていてくれる人がいなければ、きっと、どんなに遠くにいったとしても、こんな素敵にのびのびとした時間は、味わえないのですよね。
帰る場所があっての、家出です。
【この本のこと】
「ゆくえふめいのミルクやさん」
ロジャー・ヂュボアザン 作 山下明生 訳
童話館出版
【だれにおすすめ?】
読んであげるなら、5歳くらいから
もちろん、子ども向けに書かれたおもしろいお話ですが、おとなが読むと、別の意味で、グッときます。
がんばりやさんのあの人に、そっと差し出してみましょうか。
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