思い出のマーニー

ファンタジーとひと言で言っても、たくさんの種類があって、なかでもわたしが惹かれるのは、こんな物語です。

主人公のアンナが経験したことは、たしかに不思議ですが、これが空想であると、本の中だから起こる出来事だと、言い切ることはできません。

神秘的で、ミステリアスな物語です。

そして、特に、ある種の・・・つまり主人公のアンナのような想いを抱く子にとって、物語は、とても特別に感じるかもしれません。

よく、自分の殻、という言葉がありますが、まさにアンナは、自分のカチンコチンの殻から出られずに、苦しんでいました。

もちろん、その殻は、アンナひとりで作ったものではありませんが、でも、苦しくても割ることができないほど固くしてしまったのは、やっぱり、アンナ自身でもあったのでした。

アンナは、自分のことを、だれよりもよくわかっています。でも、そこから踏み出す術を、持たないのでした。

学期の途中で、美しい海辺の小さな村、リトル・オーバートンに行くことになったアンナ。

アンナは、このことを「手におえない子」の厄介払いだと思っています。

でも、たぶん、本当はそうではないことも、知っています。傷つかないように、自分を守る殻を固くするために、そう思っている・・・わたしには、そう思えます。

滞在先のペグさん夫妻は、ざっくばらんでおおらかな人たちですが、でも、やっぱり、アンナは心を開くことができません。

そのことが、また、アンナを苦しめるのです・・・

物語の前半は、海辺の洋館に住むという不思議な少女マーニーとの出会いと、マーニーと過ごす秘密の時間の中で、アンナが少しずつ自分と向き合い、こころがほぐれていく様子が、描かれています。

40年前に書かれたお話ですが、今も、 ”ふつうの”顔を崩さないことで自分を守ろうとするような、アンナの想いに共感し、胸の奥をチクチクさせながら先を見守る子どもは、多くいるのではないでしょうか。

昔、そんな子どもだった、おとなも。

だからこそ後半、マーニーと別れたアンナが、一緒にすごした時間を糧に、いつしか「外側」とも向き合い、両方の世界の大切さを知る魅力的な少女へ成長していくさまが、いっそうまぶしく、大きな意味のあることに感じられるはずだと、思うのです。

そして、ラストは・・・ラストは、とてもとても、素敵です。

何度でも、新鮮に感動してしまいます。

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正直にさらけだす術を知らず、だからまわりの心も受け入れることはできず、さめた考えの反面、まわりを気にし、自分を傷つけるものに敏感な・・

だれにでも、そんな時期があるとも、そんな時期が、自慢であるとも、思わないけれど、振り返ると、大切な時期だったと、思える。

そんな経験のある人は、たぶん、深く深くしみて、たぶん、「癒される」と、思います。

 

【この本のこと】

「思い出のマーニー 上下」
ジョーン・ロビンソン 作 松野正子 訳 岩波少年文庫

【だれにおすすめ?】

4、5年生くらいから

現実と異世界(数十年前の世界)とを 行き来するファンタジーでもあり、 謎解きのようでもあり、一人の少女の成長物語でもあり。

言葉や表現は、それほど難しくなく、率直に綴られるアンナの心がまっすぐに届きます。

自分を見つめることができるようになってきた年齢から、より楽しめると思います。

注:文中の画像の本は旧版です。現在は下のリンクにあるものになります。

 

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