トムテ

ー そとでは すべてが こおりつき、
  もみの は ひとつ、うごかない。
  はるか かなたの たきの ひびきが、
  ときの ながれの おとのように。

  トムテは ひくく つぶやいた。

  「どこへ ながれて いくのだろう。
  みなもとは どこだろう。」

             ”トムテ”より

しんしんと冷える、真冬の夜空の下。目をさましているのは、こびとのトムテ、ただひとり。

食料小屋、牛小屋、馬小屋、ひつじの小屋、母屋の主人夫婦、子どもたちのもとも、そっと見回る。

もう、ずっと昔から変わらずに続く、この、夜のひそやかな習慣の中で、トムテが抱く、ひとつの疑問。

トムテが、どうしても、わからないこと・・・それは、時の流れです。

子どもが親になり、またその子どもが親になる。にぎやかに楽しく暮らし、年老いて、どこかに行ってしまう・・・

わたしたちの持っている、トムテとはまたちがう、素晴らしい営み。流れる、限りある時間のなかを生きているということ。

いつまでも生きるトムテにはわからないことが、わたしたちには、わかります。

時間は、ただ、通り過ぎて、どこかへいってしまうのではなく、すべて、この体の中に、血や肉となって、積み重ねられていくのだと。

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スウェーデンで古くから愛される詩に、静かで美しい絵をそえた絵本です。

トムテは、スウェーデンの農家に住んでいるこびとで、何百年も生き続け、その家の人々が幸せになるように守ってくれ、手助けをしてくれます。

クリスマス・イブには、トムテの分のおかゆも、用意します。

北欧では、他にも同じ伝承のある国もあり、フィンランドではトントゥ、デンマークではニッセと呼ばれ、クリスマスの季節、サンタクロースよりも忙しいそうですよ。

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【この本のこと】

「トムテ」
リードベリ 詩 ウィーベリ 絵
山内清子 訳 偕成社

【だれにおすすめ?】

この頃では、クリスマスが近づくと、街の雑貨屋さんなどでかわいいトムテやニッセやトントゥの人形を見かけます。

それが、クリスマスとどんな関係があるのか・・・

この絵本は、その小人たちにまつわる、北欧の伝承を描いています。

描かれるのは、お店に並ぶかわいらしい妖精のような小人ではなく、寒い国に根ざした、旧習の中に生きる小人です。

好きな国を、より深く知るきっかけにもなると思います。

 

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